市場価値0→アジア移籍後2450万円に“急騰” 欧州挑戦で直面したリアル「見てもらえない」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年1月28日 6時50分
■【海外組アウトサイダー】ワン・タギッグFC(フィリピン1部)所属・佐藤彰真
欧州1部リーグを中心に数多くの日本人選手が活躍している今、海外のほかの地域にも目を向ければ独自の道を切り拓こうとする同胞の姿がある。FOOTBALL ZONEでは、そんな選手たちを「海外組アウトサイダー」としてフォーカス。今回はフィリピン1部で2季目を戦うDF佐藤彰真に同国でのプレーに至った経緯を訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の1回目)
◇ ◇ ◇
佐藤彰真のもとにフィリピンからのオファーが届いたのは2024年1月末、オーストリア4部の新天地と契約を結んだわずか数日後だった。前所属先で共闘した監督の肝煎りで実現した国内移籍。「いやいや、行くわけないでしょ」。当初は一笑に付すつもりでいた。
それでも結局、翌月には東南アジアの島国へ活躍の場を移した。下部リーグとはいえ、固い信頼で結ばれた恩師の下では安泰が約束され、欧州内でのステップアップのチャンスもゼロではない。なぜ、翻意したのか。
「自分のサッカー人生を考えた時、オーストリアの4部や3部からステップアップを目指すことが最適なのか、それともアジアの国際舞台で自分の存在を見てもらえることのどちらがいいのか自問自答しました。フィリピンからオファーをいただいた当時は24歳。この年齢でAFCチャンピオンズリーグ(2=ACL2)に出られればキャリアアップのチャンスがより広がっていくのではないかと思ったんです」
また、フィリピンの英雄から寄せられたラブコールも佐藤の心を動かした。
「フィリピン代表として60キャップを記録しているレジェンドDF、佐藤大介選手が移籍にあたって僕を直接口説いてくれたんです。『ダバオ・アギラスというチームに行くから一緒に来ないか』と。
彼は当時インドネシアのトップチームでプレーしていました。移籍するとなれば、彼の方が失うものは大きかったでしょう。それでも、移った先でCBのコンビを組む日本人選手をリストアップしてその中から僕を選んでくれた。誘いを粋に感じましたし、彼の母国帰還に懸ける思いを考えると一緒にプレーしないという選択肢は正直考えられませんでした」
そうした思いで踏み切ったフィリピン挑戦。この決断はその後、佐藤に海外日本人選手としての“生存戦略”に関する確信を与えることになる。
フィリピンの前はオーストリアからステップアップを目指そうとした【写真:本人提供】
■フィリピン移籍で急上昇した市場価値
佐藤は元々、欧州志向の強い選手だった。米沢中央高校サッカー部に所属していた2年時の冬、両親や部の監督らを説得しドイツ短期留学を実施。当時の決断をこう振り返る。
「高校生になってプロ入りを真剣に考え始めた時、夢の実現には自分から行動を起こす必要性を感じました。というのも、出身地の山形には当時まだ全国的に強豪と言えるJクラブユースや高体連があるわけではなかったので。ただ、その頃にドイツ・ブンデスリーガに日本のトップ選手が多く集まっていたので、これはもう1回行ってみるしかないという気持ちになりました」
これがサッカーなんだな――。世界屈指の強豪国でのプレー経験は佐藤に衝撃を与えた。と同時に、ヨーロッパでプレーすることのこだわりや本気度が強まった。
高校卒業後はザスパ草津チャレンジャーズ(ザスパクサツ群馬の下部組織)に加入。その後はSC相模原U21、アルビレックス新潟シンガポールを経て、関西と関東の社会人リーグを渡り歩いた。ただ、この間にもチャンスを見つけてはオランダやモンテネグロ、ラトビアで武者修行を行っている。
目標はイングランド・プレミアリーグ挑戦、そして日本代表として活躍。高みに辿り着くべく2023年になるとオーストリアへと渡り、3部からの成り上がりを目指した。とはいえ、冒頭で触れたとおり、1年後には活躍の場がフィリピンに変わっている。短い時間ながらも、プロとしてプレーするなかで欧州サッカー界の現実に直面した。
「たとえヨーロッパであっても、3~5部といったステージになると現地のサッカー関係者に見てもらえない。彼らのアンテナに引っかからないのが実情なんです」
自らのプレゼンスを示し、キャリアアップを実現するにはアジアでのチャレンジも良い選択肢の1つなのではないか――。そうした考えの下で踏み切ったフィリピン移籍は佐藤を取り巻く状況を大きく変えた。
「移籍専門サイト『Transfermarkt』で表示される市場価値が、シンガポールでのプレー以来ずっとゼロの状態が続いていました。しかし、フィリピンに移ってプレーを続けてきたことで現在は15万ユーロ(約2450万円)まで上昇しています。そうなると、代理人からの見方も変わりますし、フィリピンの移籍にあたっては自らの価値を上げることも強く意識していました」
■世界での挑戦を目指す後進たちへ
ヨーロッパをはじめとした海外挑戦は「若ければ若いほどいいと思う」と佐藤。「日本でのプレーも決して悪いことではない」とJリーグやそのほかのカテゴリーでのキャリア形成も否定しない。
それでも、自らの経験を踏まえ世界での挑戦を目指す後進に伝えたい思いをこう語る。
「大事だと感じるのは、自分のサッカーキャリアをどう客観的に捉えられるかということです。ただヨーロッパでチャレンジし、そのまま終わってしまった。そんな選手はたくさんいます。
なので、自分のサッカー人生のゴールをどこに置くかを真剣に考えなければいけません。20歳や25歳、30歳と節目はあるわけで、その1つ1つで自分はどこにいたい、ここまでは辿り着きたいという将来像をしっかりイメージして歩めるかどうかもキャリア形成のうえで非常に大切だと考えます。ターニングポイントは何回か訪れるでしょう。そこでどういう出会いを手繰り寄せられるかも、その選手の武器になるはずです」
タバオで1シーズンを戦い終えた後、現在は国内の新天地ワン・タギッグFCで活躍を続ける佐藤。今後はインドネシアといった東南アジア強豪国のリーグやJクラブ移籍を目指す展望を思い描いている。そうしてDFとしての経験値を着実に積み上げ、日本代表入りを実現できるよう欧州1部へ……。キャリアを俯瞰的に捉え、確かな戦略性を持って挑み続ける男の足取りは力強い。
[プロフィール]
佐藤彰真(さとう・しょうま)/1999年10月6日生まれ、山形県米沢市出身。米沢中央高校-ザスパ草津チャレンジャーズ-SC相模原PFC(SC相模原U21)-アルビレックス新潟シンガポール-FC淡路島-VONDS市原-ファヴォリトナーAC(オーストリア3部)-FCビサンベルグ(オーストリア5部)-ダバオ・アギラスFC(フィリピン1部)-ワン・タギッグFC(フィリピン1部)。このほかにも、高校時代のドイツ短期留学を皮切りに、オランダ、モンテネグロ、ラトビアと欧州各国でプレーし経験を積んできた。186㎝・79㎏の恵まれた体格を生かしたデュエル、足元の技術に裏打ちされた後方からの攻撃参加、DFラインを統率するコミュニケーション力を強みとしている。また、ピッチ外では地元米沢市の「おしょうしな観光大使」も務める。(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)
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