思わぬ大怪我で…“天才”が26歳で引退決意 8年間のキャリアに幕「プロだけがすべてじゃない」【インタビュー】
FOOTBALL ZONE / 2025年2月2日 6時50分
■【元プロサッカー選手の転身録】比嘉厚平(柏、秋田、山形)第3回:引退後すぐに指導者の道へ
世界屈指の人気スポーツであるサッカーでプロまで辿り着く人間はほんのひと握り。その弱肉強食の世界で誰もが羨む成功を手にする者もいれば、早々とスパイクを脱ぐ者もいる。サッカーに人生を懸けて戦い続けた彼らは引退後に何を思うのか。「FOOTBALL ZONE」では元プロサッカー選手たちに焦点を当て、その第2の人生を追った。
今回の「転身録」は、年代別代表時代から将来を嘱望されるも、プロ入り前に両膝に重傷を負い、26歳にして現役引退を決断した比嘉厚平だ。“ガラスの天才”とも形容された男は今、怪我に苦しんだ自身の経験を基に、指導者としてサッカーの魅力を伝えている。(取材・文=小田智史)
◇ ◇ ◇
柏レイソルのアカデミー時代にはスピードを武器とするドリブラーとして、その名を轟かせていた比嘉。酒井宏樹(現オークランドFC)、武富孝介(現ヴァンフォーレ甲府)、指宿洋史(現ウェスタン・ユナイテッド)、島川俊郎(SC相模原)、工藤壮人、仙石廉、山崎正登、畑田真輝らを擁した“黄金世代”の中でも、先頭を走る選手だった。
しかし、2008年1月、U-19日本代表の一員として出場したカタールU-19国際親善トーナメントの準決勝・中国戦で左膝前十字靱帯損傷、左膝半月板損傷、右膝半月板損傷の大怪我を負い、全治7か月と診断された。
その後、2009年に柏のトップチームに昇格するも、2年間で出場したのは初年度のJ1リーグ戦途中出場の1試合のみ。出番を求めて2011年に当時JFLだったブラウブリッツ秋田(現J2)に期限付き移籍すると、翌12年にはモンテディオ山形に期限付き移籍し、J2リーグ10試合でピッチに立った。
山形に完全移籍した2013年に18試合、14年は16試合に出場。ただ、14年には膝の手術も2回受け、10月以降は状態が悪化の一途を辿ってしまう。結局、15年、16年とキャリア最後の2年間は試合出場ゼロ、練習参加すらままならず。2016年の大晦日、クラブを通じて引退を発表し、怪我との戦いだった8年間の現役生活はJ1通算1試合0得点、J2通算44試合4得点、JFL30試合7得点という数字で幕を閉じた。
比嘉のセカンドキャリアは、引退後すぐに動き出す。指導者として、17年~18にモンテディオ山形ジュニア庄内監督、19年には山形ジュニアユース村山コーチ、20年には柏レイソルジュニアコーチを務めた。選手の立場こそ離れたが、サッカーへの強い思いが尽きることはなかったという。
「引退する年の冬には(指導者)ライセンスを取りに行きました。どこかで子供たちにサッカーを教えたいという気持ちと、やっぱりサッカーを見るのもやるのも好きで、そのままサッカーに携わりたいという思いが強かったので、指導者の道を選びました」
ケガを繰り返しながらもプロ生活を全うした【写真:(C) モンテディオ山形】
■比嘉が伝えたい「サッカーを楽しみ、続ける」こと
2020年には古巣・柏にU-12のコーチとして凱旋し、21年には柏のアカデミーコーチを担当。2024年から再び山形に戻り、ジュニア村山コーチとして指導にあたっている。
「今の自分があるのはタツさん(吉田達磨)のおかげ。僕らの世代のみんなが言うと思います。サッカーはもちろん、生き方とか、振る舞いにおいて影響された部分は大きい。タツさんみたいな指導者にはなれないし、『タツさんみたいになりたい』とは思わないですけど、子供たちにはサッカーを楽しんでほしいし、続けてほしい」
肉離れや膝の手術を繰り返し、怪我との戦いだったキャリアを過ごしたからこそ、同じ経験を子供たちにはさせたくない思いが比嘉の原動力となっている。ただ、プロ選手になり、結果を残すことがすべてではないとも伝えたいという。
「サッカーをやっている選手が全員プロになれるほど、甘い世界ではない。それを自分が身をもって分かっているつもりです。だからこそ、プロセスが大事で、そこで得られるものもある。自分はほかの選手とは違うキャリアを過ごしたと思っていて、年代別代表に入っていながらも長くキャリアを続けられなかったこと、度重なる怪我……、違った角度から伝えられることはきっとあるはずです」
同期の島川は、引退後すぐに指導者としてセカンドキャリアを送ってきた比嘉について、「サッカー界に居続けないといけない男だと思います」と語る。
「今は育成年代ですけど、比嘉はきっと素晴らしいメンタリティーを持った選手たちを育てられる。人を惹き付ける人間で、それは指導を受けている子供たちも間違いなく感じているはずです。僕が思うに、指導者には人を惹き付ける力が必要で、比嘉は努力だけではどうしようもできない、その力を持っている。子供たちはきっと比嘉に付いていこうと思うでしょう」
同世代の選手たちの活躍が誇らしいと話してくれた【写真:(C) モンテディオ山形】
■サッカーは「一生楽しむことができる」
比嘉は現役時代、スピードとパワーを生かしたドリブラーだった。時代こそ違うが、現代ではドリブルを得意とする三笘薫(ブライトン)が英1部プレミアリーグで活躍を見せており、世界を舞台に戦う選手を育てたいとの思いがあると比嘉は明かす。
「三笘選手は、Jリーグで言えば助っ人選手がやるようなプレーを見せている。プレミアリーグで活躍しているのを見ていると、育てたいと言うのは少しおこがましい気もしますけど、今指導している子たちにはああやって違いを作れる選手になってほしい」
同世代の酒井はかつて欧州5大リーグでプレーし、34歳となった今も現役。武富や指宿、島川もピッチに立ち続けている。“黄金世代”と呼ばれた仲間たちは、比嘉にとっての自慢だ。
「僕は早くに引退することになりましたが、彼らと比べられるプレッシャーは全くなかったです。工藤がレイソルの中心になったり、酒井が(ドイツやフランスなど)海外に行ったりしてるのを見て、最初は悔しい気持ちもあったし、『自分も!』という思いもありましたけど、いつしか純粋に誇らしくなったんです。活躍してくれることが楽しみになった。いちサポーターのような気持ちになっていきました。“ガラスの天才”と言われて、気持ち良くはないですよね(笑)。話題に挙げて頂けること自体がすごくありがたいことで、光栄なことだけど、ほかの選手たちと同じ立場に立つのはおこがましいし、恥ずかしい。『いやいや、やめてくれよ』って感じです(苦笑)」
比嘉に「サッカーで得た教訓」を尋ねると、サッカーへの愛があふれる言葉が口を突いた。
「今年35歳になりますけど、これだけ1つのことが好きで、やり続けられることはなかなかない。サッカー業界以外の人と関わることもありますけど、ずっと1つのことをやり続けたり、それで得たつながりを持っている人はそんなに多くないので、すごくありがたいことだし、素敵だと思います。サッカーにはプロだけがすべてじゃない部分があって、いろんな角度から、一生楽しめるのが魅力。僕自身も楽しみたいし、自分が楽しんでいれば周りも明るくなるはずで、サッカーを好きでい続けること、楽しみ続けることは間違いない。子供たち、選手たちにはサッカーを長く続けてほしいし、サッカーを好きでい続けてほしいです」
比嘉自身、まだ35歳。今後、指導者としてどんな選手を育て、輩出していくかも楽しみだ。
(文中敬称略)
[プロフィール]
比嘉厚平(ひが・こうへい)/1990年4月30日生まれ、埼玉県出身。柏U-12―柏U-15―柏U-18―柏―秋田―山形。J1通算1試合0得点、J2通算44試合4得点。酒井宏樹(オークランドFC)、指宿洋史(ウェスタン・ユナイテッド)、武富孝介(甲府)、島川俊郎(相模原)、工藤壮人、仙石廉らを擁した柏U-18“黄金世代”のメンバー内でも「天才」と言われたアタッカー。15~18歳の年代別代表に選ばれ、2006年のU-17アジア選手権では優勝を経験した。高3だった2008年1月、左膝の前十字靭帯損傷など大怪我を負い、翌09年にプロ入りするもコンディションが戻り切らずに16年に現役引退。17年から指導者の道を歩み始め、現在は山形アカデミー・ジュニア村山のコーチを務める。(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)
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