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妥協されたら「困るんだ」 涙のJ1昇格逸で…変わったプロ意識「あの選手は練習生だね」【インタビュー】

FOOTBALL ZONE / 2025年2月5日 6時30分

■2024年に劇的に増えた白星…秋葉監督が選手へ植え付けた根本的な意識

 2023年シーズンに20勝14分8敗という成績で4位だった清水エスパルスは、試合数が4試合減った24年に26勝4分8敗という成績でJ2優勝を果たし、3シーズンぶりのJ1復帰を掴んだ。引き分けていた試合を見事白星に変えた清水だが、24年シーズンは1点差の勝利が15試合と、勝負強さが光った。チームを率いた秋葉忠宏監督は、どのように勝ちきれなかったクラブに勝負強さを植え付けたのか。(取材・文=河合 拓/全8回の6回目)

   ◇   ◇   ◇

 2024シーズンにチームが始動するにあたり、秋葉監督はこの“勝負強さ”をチームのテーマとして掲げていた。ミーティングでは「去年の勝ち点1だとか1ゴールだとか、あと数分に泣いたからこそ勝負強くなろう」と呼びかける。

 とはいえ、“勝負強さ”というものは目に見えるものではない。どうすれば身につくのかは分からないものであり、仮に分かっていれば、すでにどこも着手しているはずだ。そこで秋葉監督は「“勝負強さ”にこだわりながら、1人1人が変化を恐れずにピッチ内でもピッチ外でも良いので、何か1つでいいから普段と違うことに取り組んでくれ」と、選手だけではなく、コーチングスタッフにも呼び掛けたという。

 このミーティングに参加したチームに関わる40数人全員が、これに応えて実践してくれたと、秋葉監督は顔をほころばせる。

「何かをちょっと変えたことで、徳を積むことにつながったのかもしれませんし、意識が変わったのかもしれません。それは人それぞれだと思いますが、40何通りの“勝負強さ”を求めるための行動を起こしてほしいと話したら、乾貴士や北川航哉はロッカールームを掃除し始めてくれましたし、ピッチ内でもいつも以上に声を出す選手が出てきました。個人個人が勝負強さにつながる何かをやってくれたのは、大きかったと思います」

■秋葉監督はベテランにも一切の妥協を許さず

 練習でも、長距離の走り込みをする際にも目印としているコーンの内側を走らないこと、ダッシュの際には決められた位置まで100%で走ることやフライングをしないこと、そうした些細なところまでコーチングスタッフは目を光らせ、映像を撮影してミーティングでも指摘した。

「めちゃくちゃ当たり前のことなんです。でも、それを毎日、1年間365日やり続けるというのは大変なんです。毎日ズルせずに、ちょっと手前でターンをしていたのをちゃんとラインまで行ってターンするとか。『ここまでMAXで走って』と言っても、走るのは手を抜きがちになります。それをやり続けられたのは大きかったですね」

 助っ人外国人やチームの絶対的な中心選手、ベテラン選手には、厳しく要求しない監督もいる。しかし、秋葉監督は誰にも一切の妥協を許さなかった。「これはエスパルスのエンブレムを背負っている限り許さない。このエンブレムを背負っている選手は、ユースであろうが、ジュニアユースであろうが、やるんだ」と、姿勢を崩すことなく接し、全体ミーティングで「これだけは許せない。これをやってもらったら困るんだ」と話すこともあった。

「外国人選手だろうが、権田(修一)だろうが、(乾)貴士だろうが、吉田豊だろうが、北爪(健吾)だろうが、高橋(祐治)だろうが、そういう話はします。でも、当たり前ですがそういう良い選手たちは、そういうことをしない。しっかりやってくれるので、だから良かったですよね。『あれだけの選手もやっているんだぞ』と、言いやすくなりますし、若手が一番手を抜けなくなって居残り練習まで本当に必死でやってくれました」

■意識改革がチームに浸透「優勝できた要因」

 意識改革はチームにも浸透していった。そして練習生が来たら、すぐに『あの選手は練習生だね』と分かるようになったという。「(全力でやっているから)あれはエスパルスの選手だねって分かる。手を抜いている選手は多分、エスパルスの選手じゃないだろうと。確認するとやっぱり練習生だったりしたんです」。

 今ではランニング前に選手たち同士で「ここまで走るぞ!」といった声が起き、ズルをした選手が出た際は、すぐに周囲に指摘される環境ができた。

「選手たちが自分たちから言い出すようになると、そういう(ズルをする)選手が浮いて来て、最後にはゼロになるんです。『我慢強さ』『自分たちから崩れない』っていう話をずっとしてきましたが、それが絶対に勝負強さにつながっているなというのは、僕も確信しています」

 そうした環境ができたからこそ、試合に起用できなかった選手たちの頑張りに秋葉監督は感謝する。

「厳しいトレーニングの中、きつい中でも手を抜かないとか、諦めないとか、自分に負けないとかをやり通してほしかった。その意味では、本当に1年間、なかなかチャンスのなかった選手たちは苦しかったと思います。MVPを挙げるとしたら全員ですが、特に試合に出られなかった選手たちですね。彼らが常に100%でトレーニングをしてくれたので、競争力が高く、緊張感がありながらもギスギスしていない、そういう非常に良い空気間でトレーニングできました。これが一番、僕は優勝できた要因だと思っています」

■監督として初タイトル「めちゃくちゃ意味のある1年間」

 秋葉監督は、現役時代にアルビレックス新潟でJ2を優勝した経験を持っている。また、年代別日本代表としても1994年のアトランタ五輪をはじめ、アンダーカテゴリーの大会でアジア予選を突破して世界大会に出場してきた。

 今回、監督としては初めてのタイトル獲得になったが、「僕の中でも成功体験ができましたが、やっぱり優勝するチームはこうだなとか、何か目標を達成するチームはこうだよなというのを再確認できました。そういうチームに近い、本当に良い空気で1年間やれたので、選手とスタッフには本当に感謝したいです」と、1年をともに過ごした仲間に感謝した。

 1シーズン長くJ2を戦うことになったが、「めちゃくちゃ意味のある1年間になったと思いますし、むしろ、そうしなければいけないとスタートから話していました」と、秋葉監督は言う。

「去年のあの悔しさが、我々を成長させるのにつながります。僕は『過去は変わらない』ってずっと思ってきました。もちろん出来事は変わらないですけれど、自分の思い方とか考え方、捉え方1つで『これが必要だった』とか、『あれがあったから、こういう成功があったんだ』って思えるようになるんです。

 そういう話もミーティングではしていました。去年の当時は失敗で、悔しさしかありませんでしたが、今となっては『あれがあったからこそ』とか『あの経験があったから成功できたね』とか『また成長できたね』と話しているので、僕らにとって非常に意義のある2023シーズンにすることができたのは、今年の2024シーズンが良かったからだと思います」

■2024年が「さらに意味を持てるかどうか」は今後に懸かっている

 クラブ創設30周年でJ1昇格を逃すという屈辱を味わった2023年シーズン。その結果、翌シーズンをもう一度J2で戦うことになったが、この1年がさらに意味を持てるかどうかは、この先の戦い次第だ。秋葉監督もそのことを強く認識している。

「ここからは、これ(降格して昇格すること)を繰り返さないように、J1に安定して居続ける。そのなかでトップ3、チャンピオンに手が届く場所に行けるかという立ち位置になるので、しっかりと上を目指しながら、もう2度と落ちることがないクラブにしていきたいなと思います」

 昇降格を繰り返すエレベータークラブとなるのか、安定してJ1で戦っていくクラブとなるのか。2024年シーズンが本当に意味のある、クラブを変えるシーズンになったかは、この先のチームの戦いぶりで決まってくる。

[プロフィール]
秋葉忠宏(あきば・ただひろ)/1975年10月13日生まれ、千葉県出身。現役時代は千葉―福岡―C大阪―新潟―徳島―草津―相模原でプレー。相模原では選手兼監督として活躍。13年より群馬の監督、その後は日本代表のアンダー世代でコーチも務め、20年より水戸の指揮を執る。23年から清水のヘッドコーチとなり、同年4月から監督に就任した。熱い言葉で選手、サポーターを鼓舞し、24年5月にはJ2通算100勝を達成。同年、清水のJ2優勝&25年シーズンのJ1昇格に導いた。(河合 拓 / Taku Kawai)

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