ヤフー×白馬村の成功にみる「一企業肩入れモデル」の実力

Forbes JAPAN / 2016年5月29日 18時0分

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ウィンタースポーツの聖地、白馬村。ここが近年、夏のアウトドアスポーツでも注目されている。背景には、ヤフーの支援があった。「肩入れ」とは、「ひいきをすること。力を添えること」。1企業が1つの地域に”肩入れ”し、片っ端から課題を解決していくことで、今までになかった地域活性化が見えてくる。

ウィンタースポーツで知られる長野県北安曇郡白馬村。ここが長年にわたって抱えてきた課題は、グリーンシーズン(夏)の閑散期における集客施策だった。その解決策として2011年に始まった「白馬国際トレイルラン」は今、全国でも屈指のトレイルランニングイベントになっている。15年の第5回大会では出場者約2,000人の枠に申し込みが殺到し、数時間でいっぱいになるほど。冬のスキーに続く新たな観光の目玉として、一年を通した白馬の雇用促進策として、村の活性化に繋がることが期待されるキラーコンテンツに育っている。

このイベントの立ち上げと運営には、Yahoo!JAPAN(以下、ヤフー)の宮坂学社長以下、大勢のヤフー社員がボランティアで参加してきた。USTREAMでの中継や、エイドステーションの設営、後夜祭の運営も無償で手伝った。いや、手伝ったというよりもむしろ「主体者」として、進んで色々なことを企画して実行した。

ぐっと肩を入れて、社員も、そうでない人も巻き込む。宮坂さんは、こうして地方を元気にしてきた。白馬の自然が大好きな宮坂さんは今、100マイル(約160km)のトレイルランニング、青木湖を使ったトライアスロン大会、世界の一流スノーボーダーを呼んで白馬の雄大な山を滑らせるイベントのアイデアを、地元の若いリーダーたちとともに構想している。

15年9月、ヤフーは白馬村と連携協定を結んだ。白馬高校へのICT教育の支援などを行い、観光や教育分野の活性化を目指すそうだ。この事例を、最近よく聞く「地方創生」や「官民連携」という言葉で片付けるのは簡単だ。しかし、ヤフーのような社員数千人規模の上場企業が、創業の地でもない人口1万人弱の地方自治体と、こうして手を繋ぐ事例は全国を見渡してもなかなか見当たらない。

ヤフーと白馬村が繋がったきっかけは、宮坂さん個人のルーツが白馬村にあったことにある。白馬村は、宮坂さんの父親の出身地であり、山口県出身の宮坂さんにとって第二の故郷であり、スポーツでリフレッシュするための場所でもある。

とあるインタビューで宮坂さんは「社員には、会社の器を利用して、仕事を通じた自己実現をしてほしい」と答えている。これを一番実践しているのは、おそらく本人だ。宮坂さんがやっていることは、立場に関係なく、個人が「自分の特別な思いをきっかけに行動すること」の大切さを教えてくれる。

宮坂さんの頭の中は、いつもアイデアでいっぱいだ。社内を歩きながら、あたためているアイデアを社員に投げかける。「これさ、絶対いけると思うんだよね〜!」。筆者はヤフーで働いたことはないが、いろんな方からの話を聞くと、たぶん、こんな感じだ。

だいたいのアイデアは実行には移されず、結局実現しないらしい。しかし、ヤフーのミッションと世の中の流れが、宮坂さんの思いのベクトルと一致したとき、ユニークなプロジェクトが生まれる。

例えば、3年がかりで13年に実現させた「ツール・ド・東北 2013 in 宮城・三陸」。三陸の雄大な自然の中を自転車で走るレースだ。東日本大震災直後に、被災地の人から「とにかく人に来てほしい」という言葉を聞いたのがヒントになった。

15年には「未来に残す、戦争の記憶〜100年後に伝える、あなたの思い〜」というプロジェクトを立ち上げた。これは、戦争に関する記憶や思いを未来に残すための特集だ。宮坂さんの祖父が戦争で亡くなっているという個人的な思いや、戦後70年が経過し、戦争を経験した世代から生の声を聞ける時間が残り少ないことへの危機感から、宮坂さん自らがリーダーを務めた。

少し話は変わるが、ヤフーはオフィスでも自宅でもない「ベース(BASE)」を、全国につくっている。社内の人、社外の人にかかわらず、オフィスとは違うざっくばらんなコミュニケーションが取れる場所、というのがコンセプトだ。

本社のある六本木には「六」を取って「BASE6」、震災後に石巻につくった「ヤフー石巻復興ベース」、北海道の美瑛町には廃校になった小学校を改修した「美瑛ベース」がある。そして、ずっと宮坂さんが”肩入れ”していた白馬には「白馬ベース」があり、同じく白馬にある宮坂さんの父親の遺した家は、雪にちなんで「ホワイトベース」と呼ばれている。ホワイトベースにはヤフー社員も頻繁に訪れ、そのガレージには社員のスノーボードがずらりと並ぶ。ちなみに、千葉県の館山にある幹部社員の別荘も「館山ベース」と名付けられており、ベースは少しずつ全国で増殖しているようだ。

日本は”課題大国”だ。特に地方には雇用・教育などの問題が山積みである。だが課題を解決することはビジネスを創ることに繋がる。考え方を変えれば、日本はビジネスチャンス大国なのだ。

ただ、あらゆるビジネスを取り巻く環境が急速に変化するなか、誰がどの課題に取り組むのかを、みんなで考えている暇はない。新入社員でも社長でも、誰が言い出してもよい。例えば、生まれ育った場所、好きな食べものの名産地など、理由は何でもいい。手を挙げた人をリーダーに、1企業が1つずつ、どこかの地方に”肩入れ”して片っ端から課題解決すれば、日本がもっと楽しく、いい国になるような気がする。

後藤陽一◎電通総研Bチーム「エクストリームスポーツ」担当としてアクションスポーツや山岳スポーツ関連のプロジェクトを多く支援。国連世界観光機関「山岳リゾートカンファレンス」パネリスト。趣味はバックカントリースキーで、白馬村に頻繁に出没。

電通総研Bチーム◎電通総研内でひっそりと活動を続けていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー25人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。各種プロジェクトを支援している。平均年齢32.8歳。

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