注文をまちがえる料理店、世界に広がるか「てへぺろ」の輪

Forbes JAPAN / 2017年9月28日 8時0分

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9月16~18日に「注文をまちがえる料理店」を六本木で開催しました。300人ほどのお客様がお越しになり、大盛況のうちに終わりました。と言われても、そもそも「注文をまちがえる料理店」ってなんなんだよという方もたくさんいらっしゃると思います。

これは一言でいうと「注文を取るホールスタッフが、みんな”認知症”のレストラン」です。今年6月にプレオープンという形で、80人程のお客様をお呼びして実施したところ、国内外で非常に大きな反響を呼び(と自分で言うのはすごく恥ずかしいのですが…)、9月21日の世界アルツハイマーデーを前に、再び開催することになりました。

さて、今回の「注文をまちがえる料理店」ですが、基本的なコンセプトややり方は前回を踏襲しています。ですので料理店の雰囲気なんかを知りたいなと思ってくださった場合は、たいへん恐縮ですが、まずは前回の記事を読んで頂ければ大変嬉しいです。

というわけで今回は、プレオープンとは大きく変えたいくつかの点にフィーチャーしながら書き進めていきます。

まず今回の「注文をまちがえる料理店」における一番大きな変更点は、クラウドファンディングで資金を調達した点です。日本最大規模のクラウドファンディング企業Readyforさんのサポートを受け、8月7日から24日間でクラウドファンディングを開始。目標額800万円に対して、493の個人、企業、団体から合計1291万円のご支援を頂くことができました。この場で改めて、心からのお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

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クラウドファンディングの資金調達結果

と、ここで早速話が横にそれますが、クラウドファンディングが始まったその日にReadyforさんから聞いたんですけど、本来この目標金額だと24日間なんて期間設定はしないんだそうです。普通ならその3倍の期間は必要とのことで、「うん、そういうことは早く言って欲しかったな」って思いました。集まって本当に良かったし、感謝しかないんですけど、この3週間は生きた心地がしなかったです。

今回のクラウドファンディングの方式が「All or Nothing」といわれるもので、集まらなければプロジェクト不成立、お金は全額返金という恐ろしい方式だったので、プロジェクトの発起人としては変な責任を感じちゃって。でも、Readyforさんは「このプロジェクトは前例がないことばかり起きるから絶対に大丈夫ですよ!」って力強く言っているし、まあプロがそう言うんだから……くらいでやってみたんですけど、達成するまでは生きた心地がしなかったです。

それはさておき、今回僕は企業協賛ではなく、クラウドファンディングにこだわったのですが、それは結果的にすごくよかったと思います。

このプロジェクトは、僕自身、本業とは関係なくやっている個人的なプロジェクトです。そうしている理由は、特定の企業がプロジェクトを抱えてしまうと、どうしても特定の”色”がついてしまい、せっかく参加したいと思っている人や団体がいても、様々な事情でご一緒できなくなるかもしれない、という予感がしたんです。

そういう意味で、クラウドファンディングという手法はうってつけでした。お金を出すという方法を通して、このプロジェクトの一員になってくださる人がたくさん増えていく。それは、単に資金が集まるということ以上の意味があるように思えました。

実際、このプロジェクトを知って、自主的にグループを立ち上げて一口1000円からのカンパを募り、何十人という仲間と一緒にどかっと支援してくださったというケースもありました。また、高校生が大切なお小遣いの中からお金を出してくれたという話も聞きました。この一人一人が、「注文をまちがえる料理店」の趣旨に賛同してくれている仲間なのだと思うと、ものすごく心強く思いました(本当に生きた心地がしないほど不安だったもので)。

そして、前回から変えたところ、その2。それは「型をつくる」ということでした。6月のプレオープンのあと、国内外から「ぜひ自分の地域、自分の国でもやりたい」という声をたくさん頂きました。すごく嬉しくて、ありがたい話だと思いつつ、正直頭を抱えてしまいました。

「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトに参加しているメンバーは、デザイン、IT、料理店経営、認知症介護といった各分野において、第一線で活躍している最高峰のプロフェッショナルたちばかり。いわばオールスター級を揃えたからこそできたのがプレオープンだったので、これをどの地域でも実施するにはどうしたらいいのか、僕にはその答えがすぐには分からなかったのです。

そこでメンバーと何度も話し合い、今回は「注文をまちがえる料理店」の”型”をつくることが大切なのではないかという結論に至りました。「注文をまちがえる料理店」が大切にしなければいけないルール(おしゃれであること、料理がおいしいこと、アレルギーや料金の点で安心安全が保たれることなど)や実施にあたって具体的に必要になってくるリソース(人、場所、グッズ、お金など)を洗い出し、「自分の地域でもやりたい」という声に応えられる体制づくりを目指すことにしたのです。

その中でも僕たちが大切にしたのが、「間違えることを目的にしない」ということです。「注文をまちがえる料理店」と言っておきながら変な話ですが、これは僕たちの背骨ともいえるような、とってもとっても大切なルールです。



あたりまえのことですが、認知症を抱える人たちは、間違えることなど望んではいません。間違えたくないけど間違えてしまうし、忘れたくないけど忘れてしまう。そして、間違えたときには混乱するし、深く傷つくこともある。だから「注文をまちがえる料理店」では、認知症を抱えるホールスタッフが、できるだけ間違えないような準備や体制をとったうえで、それでも間違えてしまったときには「ごめんね、てへぺろっ」ということでやろうと決めたのです。

そんなことを言うと、「あらあら、ずいぶん立派なことを……」と思いますよね。ごめんなさい、これって言うは易しで、プレオープンの時からこのことをぶち上げているのですが、僕たち全然できませんでした。プレオープンは、むちゃくちゃカオスでしたから。お客さんの60%が間違いを経験するという衝撃の結果が出ましたからね。それはそれでお客さんが楽しんでくれたのでよかったのですが、僕たちの中にそれでいいんだっけ? という思いは残りました。

「間違えない準備を!」なんて息巻いていたけど、結局理念ばっかり先行して、本当に突き詰めてその準備できてたんだっけ? と疑問がわいてきたんですね。

型をつくるためにオペレーションを一つ一つ見直していくと、やはり僕たちのオペレーションにはたくさん穴がありました。間違い発生率60%には理由があったんです。というわけで、いろいろ改善することにしました。

例えば、お客様がばらばら入店してくるとホールスタッフが混乱するので、事前予約制にして、みなさん決まった時間に来て頂くようにしました。また、お客様が入店してお帰りになるまでの一回転を90分とかなり長めにすることで、焦らずゆったりと働けるオペレーションを設計。さらに、ホールスタッフの担当するテーブルを明確にして迷わなくて済むようにしたり、サポートする福祉の専門家の人数や配置もゼロベースで検討し直しました。オペレーションの確認も現地で何度か行い、今度こそこれでもかというくらいの準備を重ねました。

その結果はどうだったか。3日間で間違いを体験したお客様の数は25%に減りました。やりました! 僕たちとしては大きな前進だったんですけど、いやあ、それでも間違いは起きるんですよね。注文を何度も取りに行っちゃったり、飲み物を出すのを忘れたり、お客様を席まで案内していたはずなのに、自分が先に席にどかっと座ってしまって、「あなたどこから来たの?」なんて世間話に花を咲かせてしまったり。

もうこちらとしては「あっぱれ!」と笑うしかないんですけど、そんな様子を見ていて一つ面白いなぁと思ったのは、お客様が「間違いをあまり期待していない」という事実でした。実際、来店後のアンケートを見ていても、「間違いはあってもなくてもどちらでもいい」と言う声がいくつも見られました。それよりも、認知症を抱えるホールスタッフとの会話や交流を楽しめてよかったという人がとても多かったのです。

これは新鮮な驚きでした。「注文をまちがえる料理店」という看板を掲げてやっていますから、やはりお客様もどこか間違いを期待してきているんじゃないのかな……という思いは常にありました。でもお客様は、認知症のホールスタッフとコミュニケーションを取りたいと思って来ているし、そのことを楽しんでくれているんですよね。だから、積極的にホールスタッフに話しかけている様子があちらこちらで見られるんです。

例えば「今日のおすすめはなんですか?」と聞いていたお客様がいました。するとホールスタッフは「こちらのタンドリーチキンバーガーがおすすめですね。今日は雨ですね。外の雨を見ながら食べるのもオツかもしれませんね」と返す。お客様はふふふと笑って、タンドリーチキンバーガーを注文する。

あるいは、こんなことも。今回メニューに一風堂さんが開発してくれた「フォークで食べる汁なし担々麺」というのがありました。これは麺を食べ終わったお皿に、ジャスミンライスを入れて混ぜて食べると美味しいのですが、なかなかその説明を伝えることができません(仕方がなくサポートスタッフがこそっとお伝えしていました)。うーん、趣向を凝らした演出が仇となったか…と思っていたら、3日目にホールスタッフがさらっと言ったんです。「最後にこのご飯を入れると美味しいんだって」。それを聞いたお客様は大喜び。嬉しそうにぱくぱく食べていました。

他にも、虎屋さんが開発してくれたデザート「てへぺろ焼き」を出すときに「ぺろぺろ焼きだっけ?」と天然を炸裂させて笑いを取っていたり、グリル満天星さんの「小海老とホタテのふわとろオムライス」を運ぶときに「これ食べたら、ほっぺた落ちちゃうからね、私みたいに」と小粋なトークをはさんだり。3日間、ずーっとレストランの中には、ホールスタッフとお客様の会話と笑い声が響き渡っていました。


グリル満天星さん開発の「小海老とホタテのふわとろオムライス」

そんな料理店の様子を見て、実行委員会のスタッフが「自然だなぁ」とつぶやいていました。僕もまったくその通りだと感じました。「注文をまちがえる料理店」では、まちがえることを受け入れ、まちがえを一緒に楽しんじゃおうという価値観を発信する中で、一つ「寛容」というのをキーワードに掲げてきました。でも、寛容って言葉は「許し、受け入れる」という意味なので、実はちょっと上から目線の言葉なんですよね。だから、僕自身はその言葉を使いながらも、少し違和感も抱いていました。

だからこそ、スタッフの発した「自然だなぁ」という言葉がとてもしっくりきたのです。認知症を抱えるホールスタッフたちは、3日間を通して、誰に言われるでもなく、コップに水がなくなればすっと注ぎにいき、床にごみが落ちていればさっとほうきではいていました。そこには料理店としての当たり前の風景が広がっていて、お客様との当たり前の会話がありました。

「注文をまちがえる料理店」は、間違いがあってもなくても、認知症があってもなくても、みんながそこにいることを一緒になって楽しめる空間になりつつあるのかなぁと感じました。

「注文をまちがえる料理店」を3日間やってみて、本当に多くの発見がありましたし、やっぱりやってよかったと思いました。その中で、個人的に特によかったなぁと思ったことがあります。それは、3日目に取材に来てくれたメディアの方々を見たときのことでした。その日来てくれていたのは、アルジャジーラ(中東)、ニューヨークタイムズ(米)、CCTV(中国)、KBS(韓国)でした。国も思想も超えて、世界の様々なメディアが注目してくれている。そのことに僕は素直に感動しちゃったのです。

「なんで取材に来てくれたんですか?」と聞くと、「前回のプレの写真を見て、認知症を抱える人があんなに素晴らしい笑顔を見せる理由が知りたかった」とか「認知症の人たちと共に暮らす一つの方法として、とてもユーモアがあって興味を持った」などと答えてくれました。

僕は彼らと話していて、「Warm Japan」っていう考え方ってありなのかな? と思うようになりました。「Cool Japan」ももちろん大事だと思うのですが、これから先は「日本ってなんだかあったかいよね」「なんだかほっこり心地いいよね」って思ってもらえることが、大きな価値につながるんじゃないかなと思い始めたのです。

そして、急にぶっとんだ話になるかもしれませんが、僕は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、一つの目標ができた気がしました。

例えば、選手村の横や街中に「注文をまちがえる料理店」があったら面白いかもな……とか。それだけじゃなくって、老いや障害やマイノリティに触れるエンターテイメントなテーマパークができてもいいよな……とか。あ、すいません。やっぱりぶっ飛びすぎかもしれないです。今、この原稿を書いているのが夜中の2時なので、深夜ハイになっているせいだと思います。ごめんなさい。

まずは一歩、一歩。「注文をまちがえる料理店」のロゴが象徴している”てへぺろ”の輪を少しずつ広げていくことから始めようと思います。今回、クラウドファンディングなどでつながったたくさんの仲間とともに、実行委員のメンバーみんなで考え抜いた「型」を活かしながら、ぼちぼちとやっていきます。


今回のオープンに向けて制作した「注文をまちがえる料理店」ロゴ入りの食器たち

自分の地域でもやってみたい! と本気で思ってくださる方は、ぜひ「注文をまちがえる料理店」の公式フェイスブックにメッセージを送ってください。僕たちもボランティアベースで活動していますので、いきなりすべての声にお応えできるわけではありませんが、時間と労力をかけてじっくりお話し合いをさせていただき、「やれそうですね!」となれば今回集まった資金で作らせて頂いたお皿やエプロン、その他さまざまなグッズの貸し出しなども可能です。

と言ってみましたが、今は少しだけ休みたい……というのが本音なのでお手柔らかにお願いします(てへぺろっ)!

番組を作らないNHKディレクターが「ひっそりやっている大きな話」
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