映画界のシンデレラストーリー 「カメラを止めるな!」が面白い

Forbes JAPAN / 2018年7月28日 11時10分

写真

製作費わずか300万円、監督も俳優もほとんど無名、6月23日に都内2館のミニシアターで始まった映画が、8月3日から全国80館近い劇場で拡大公開となる。新たな劇場のなかには、国内では1位2位の動員力を競うTOHOシネマズ日比谷やTOHOシネマズ新宿なども含まれ、映画ビジネスの世界でひさびさに生まれたシンデレラストーリーとして注目を集めている。

映画のタイトルは「カメラを止めるな!」。監督や俳優の養成スクールであるENBUゼミナールの「シネマプロジェクト」から生まれた作品だ。

このプロジェクトの7本目の作品として監督のオファーを受けた上田慎一郎が、かねてから温めていた、前半と後半で設定がらりと変わる二重構造の作品を提案。映画製作が実現した。脚本はENBUゼミナールで教鞭をとる映画監督などからもアドバイスを受け、上田自らが執筆した。

37分をワンカットで

「二重構造」と書いたが、この映画は、最初の37分間、ゾンビ映画を撮るために山奥の廃墟で撮影を始めたクルーの前に、本物のゾンビが現れるという物語が展開される。特筆すべきは、これがすべてワンカットで撮影されていることだ。カメラは1度も止まることなく、登場人物たちを追い続ける。

ワンカットの長回しは、俳優たちには習熟した演技や、スタッフには秒単位のタイミングが要求されるが、この37分間のゾンビ映画は、見事にそれらを達成している。37分間のワンカットは、都合6テイク、撮影されたということだが、採用されたのは最後のテイク。血糊がレンズにかかったりして、ハプニングが思いがけない効果をもたらした場面もあったという。

そして、ゾンビ映画が終わり、「カメラを止めるな!」というタイトルが登場すると、いよいよ「本編」が始まる。ネタバレを承知で書いてしまうと、以降は、これまでのゾンビ映画の「謎解き」となるドラマが展開される。

これが抱腹絶倒、とにかく面白い。ゾンビ映画の各場面の裏事情が、ちりばめられた伏線を回収するかのごとく、すべて明らかになり、ストンと胸に落ちてくる。前半のゾンビ映画のおどろおどろしさと比べると、かなり笑いと爽快感に満ちたものとなっている。

何故この最初37分間のゾンビ映画がつくられたかも、ドラマの展開とともに徐々に明らかとなり、最後はこの映画最大のハイライトシーンでもある「組体操」の場面が登場する。何度練習しても失敗していた(本番では奇跡的に15秒間成功した)出演者総出の組体操が、何のためにあるのかは、映画を観てのお楽しみだ。

そして、この映画の魅力を支えているもうひとつの要素が、無名に近い全12人の俳優たちの演技だ。オーディションをして集めたのだが、選考の基準は「不器用な人」。その結果、顔を揃えたのは、映画を観ると納得すると思うが、かなりの曲者ぞろい。

上田監督は、まずその12人を集め、4カ月にわたって演技のワークショップを開いた。エチュードや既存の映画台本を演じるさせることで、俳優ひとりひとりの個性を確かめていったという。そのうえで、脚本は俳優のキャラクターに合わせて、当て書きしていった。映画のなかで、俳優たちの演技が躍動しているのは、そのあたりに秘密があるのかもしれない。

異例の全国拡大公開へ

筆者は、この映画の公開週に、新宿の「ケイズシネマ」で観賞したのだが、午後3回の上映は、すべて満席。午前中にチケットは売り切れるという現象を、この目で確認した。ちなみに、ケイズシネマでは公開初日の6月23日から上映72回連続満席という記録を打ち立てたという。 

テレビの情報番組などでも、その人気沸騰ぶりはたびたび取り上げられることとなり、いまいちばん観たい映画だが、いちばん観るのが困難な映画として語られるようになった。当初、配給は、この映画を製作したENBUゼミナールが単独で行っていたが、映画配給会社でもある「アスミック・エース」がこれに加わり、異例の全国拡大公開につながった。

ほぼ自主製作のかたちでつくられたインディペンデントの映画が、その面白さが認められ、大手の映画会社と組んで、全国展開の配給網に乗る。日本の映画ビジネスの世界のなかでも画期的なできごとだ。

この映画を、池袋の「シネマ・ロサ」とともに公開した新宿のケイズシネマは、ジャン=リュック・ゴダール作品の上映や、自主製作の作品を積極的にスクリーンにかける劇場として知られているが、上映回の前後には、そのこじんまりした趣あるロビーには人が溢れ、ひさしぶりに素晴らしい映画に対する観客たちの熱気を目撃した。

カンヌ国際映画祭での「万引き家族」のパルムドール(最高賞)受賞とはまた違った意味で、日本映画の未来も、まだまだ捨てたものではない。

連載 : シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>

Forbes JAPAN

トピックスRSS

ランキング