連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第89回目は「ブラックウォッチ」のルーツを探ります。この連載を読んでファッション用語の背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
【用語解説】まずは「ブラックウォッチ」を知ろう。
「ブラックウォッチ」とは、スコットランドのクラン(=氏族)タータンチェック(家紋のように各氏族を表すチェック柄)の一種です。スコットランドの民族衣装である「ブラッド」、およびスカートの「キルト」に用いるものです。ウォッチは「見張りをする」という意味があり、夜番の着るような暗い目立たない配色の格子柄をさしています。紺と濃い緑に黒いラインが入ったものなどが代表的です。ウォッチマン・プラッド(プラッド=格子柄)とも言われます。
【歴史】1700年ごろ反政府軍を見張る軍隊が着用したチェック柄
「ブラックウォッチ」はスコットランドのクランタータンの一種であることは、前述のとおりです。クランタータンは日本でいう家紋のようなもので、各氏族はそれぞれに決まったタータン柄を持ち、その柄を見れば、所属する氏族(家柄)がわかるようになっています。
「ブラックウォッチ」は正確には氏族のものではなく、軍隊のもの。1700年頃、反政府派の取り締まりのために、高地地方の人々(ハイランダー)から成る独立歩兵中隊が創立されたのですが、彼らが身に着けることを許されたチェック柄をさして、「ブラックウォッチ」と呼ぶようになりました。
「ブラックウォッチ」は直訳すると黒い見張り番という意味になり、そもそもは反政府派を見張る役を担った彼らのあだ名。そんなことから彼らが着ていた青・黒・緑色のチェック柄も「ブラックウォッチ」と呼ばれるようになり、それが現代まで引き継がれているというわけです。
【雑学】キャサリン妃はコートで纏い、ドラマティックに着て
チェック柄の着こなしと言えば本場英国人にならいたい、ということもあって、イギリス王室ファミリーの着こなしは取り上げられがちです。「ブラックウォッチ」柄の着こなしも、やはり彼らにならうといたしましょう。
たとえばキャサリン妃は、全面が「ブラックウォッチ」柄の細身のコートをドレスのように纏っていました。数ある「タータンチェック」のなかでも比較的落ち着いたトーンということもあり、着こなしの大半のパーセンテージを占めても上品に映ります。ひかえめながらも人目を奪う華やかさもある、「ブラックウオッチ」柄。ぜひ、着こなしに取り入れてみてくださいね。
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A