クリエイティブチーム Do it Theater(ドゥイット・シアター)がテーマごとにおすすめの映画を3作品紹介する、連載《土曜日のシネマサロン》。 Do it Theaterの阪実莉(さか みのり)です。この連載はDo it Theater女子部が様々な切り口のテーマで、おすすめ映画をリレー方式でご紹介しています。
秋も終盤、街も冬めいてきましたね。気温の変化で体調を崩している方も多いのではないでしょうか。そして、今週は残念なことに天気も悪いようです。年に一度の文化の日ですし、この機会に自宅でゆっくり映画を観ながら過ごしませんか?
今回は、30代におすすめのAmazonプライム・ビデオで観ることができる隠れた名作映画、『すばらしき世界』『(ハル)』『幸せのレシピ』をご紹介します。
西川美和監督が役所広司と初タッグ。社会と人間の今を描く
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title:『すばらしき世界』
【story】
下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上(役所広司)は、強面の見た目に反して、優しくて真っ直ぐすぎる性格の男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で暮らした元殺人犯。一度社会のレールから外れたものの、何とか再生したいと保護司の庄司夫妻に支えられながら過ごしていたある日、三上に若手テレビマンがすり寄り、ネタにしようと目論む。それは、社会に適応しようともがく三上を捉えるというものだった…。
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『永い言い訳』『ディア・ドクター』の西川美和監督が役所広司と初タッグを組んだ人間ドラマ。原作の『身分帳』は、役所広司演じる三上のモデルとなった田村明義と、著者・佐木隆三が親密な関係を築きながらも彼を取材しまとめた小説です。これまで多くのオリジナル脚本映画を手掛けてきた西川監督にとって初めての小説原案の作品ではありましたが、公開当初「素晴らしい作品だ」と口コミが広がり、話題になりました。近年サブスクの視聴ランキングにも入っていたりと、気になっている方も多いのではないでしょうか。
本作は、舞台を原作から約35年後の現代に置き換え、人生のほとんどを裏社会と刑務所で過ごした男が「次はカタギぞ」と声を漏らしつつも、社会で再出発しようとあがく様子、そして彼の姿をテレビ番組にしようとするメディアの姿を描くことで現代社会の問題を映し出します。
なんといっても主演・役所広司の素晴らしい快演。そして、存在感がある主演の脇は、仲野太賀、長澤まさみ、六角精児、橋爪功など実力派俳優が固めています。西川監督の師である是枝裕和監督も「西川美和、新章突入!」とコメントを出してしまうほどに、圧倒されてしまう作品です。
三上のように、自分の心に素直に生きていくことは社会では生きづらく、少しずる賢く嘘をついたほうが生きやすい。今私たちが生きる世の中は“すばらしき世界”なのか? ある意味で、正義がわからなくなってしまう感覚を抱いてしまいます。
観応えたっぷり、かつ心にしっかりと残ってくれる作品です。ぜひご覧ください。
パソコン通信で男女が出会う、ノスタルジックな恋物語
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title:『(ハル)』
【story】
(ハル)というネームでパソコン通信の映画フォーラムにアクセスを始めた速見昇(内野聖陽)は、仕事も恋もうまくいかず鬱屈していた。そんな彼に(ほし)という男性から励ましのメールが届く。その日から、お互いに本名も顔も知らない気軽さで、それぞれの悩みを打ち明け合う仲になっていくが、実は(ほし)は男ではなく、藤間美津江(深津絵里)という女性だったことが判明する。
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パソコン通信という言葉を聞いたことはありますか?インターネットが登場する前の時代、日本では1980年代頃から使われていたサービスで、メールや掲示板、チャットなどのコミュニケーション、ニュースやデータベース検索などを使用できたそうです。
今作は、1990年代前半にパソコン通信を通じて見知らぬ男女が出会い、恋が生まれるまでを描いた恋物語。ラブストーリーではなく恋物語、ここ重要です。
メッセージでやりとりする二人はお互い素性を知らず連絡を取り合い、初めは恋愛感情もありませんでしたが、実体のない距離感ゆえの愛着がわき、好意を持ち始め、会いたいと思うようになります。現代は、SNSや時にはGPSアプリを通じて人と待ち合わせをしたりもしますが、顔も知らない相手と事前のやりとりだけで目印になるものを手に待ち合わせをして、そこで初めて顔を見る……なんてドラマティックなんでしょう。
手段が少ない時代だからこそのパソコン通信でのメッセージ。返信が来るかはわからないけれども、考え抜いた上で送った感情がしっかりと乗っています。手紙とEメールの間とでもいうのでしょうか。そんな風に毎日、糸を紡ぐようなやり取りをする二人。彼らの澄んだ世界に浸れる作品です。
今ちょうどブームがきている平成初期ならではのおしゃれな雰囲気も感じられるので、ぜひ作品情報だけでも調べてみてください。
突然の変化に、少しずつ人生が変わっていく
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title:『幸せのレシピ』
【story】
マンハッタンの高級レストランで料理長を務めるケイト(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)は、ある日、姉を突然の事故で亡くし、残された姪のゾーイ(アビゲイル・ブレスリン)を引き取ることに。一方、仕事場には、ケイトとは正反対な性格の陽気な副料理長ニック(アーロン・エッカート)が新たに加わる。完璧主義のケイトは自由奔放な料理スタイルのニックに反感を募らせていく。
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2001年のドイツ映画『マーサの幸せレシピ』をハリウッドリメイクしたロマンティック・コメディ。恋愛・人生・料理と盛りだくさんな要素を扱う作品です。
NYの高級レストランで料理長を務めるケイト。仕事ができるかっこいい彼女ですが、プライドの高い彼女は、自分ルールを持っています。
1・自分の仕事は完璧に、2・甘えている自分は嫌い、3・妥協はしない、4・泣くときは、ひとりで。
誇り高い彼女が、過去にたくさん傷つき、自分を守り高めるために作り出したルールなのでしょう。そうして自分を律しながらも充実した日々を送っていたケイトでしたが、姉の死で急に親にならなければならなくなり、なおかつ同時に陽気なライバルシェフの登場。自分ルールを壊されてしまい、彼女にとって最初はストレスフルな出来事でしたが、そんな二人と過ごしていく中で彼女自身が変わり、良い変化が訪れます。
変わることは疲れるし、傷つく。時には反発してしまう。そんな時、誰かの手助けで周囲と打ち解けあい、変われることは彼女にとって新しいステージに登ったかのような素敵な出来事ですよね。自分の人生レシピを大切にしていたケイトでしたが、それは彼女を縛るものだったのかもしれません。少なくとも彼女が幸せになれるレシピではなかった。
学生時代に観た映画でしたが、今改めて観ると心への染み込み度が違いました。少し頑張りすぎてしまっている方におすすめです。心ほぐれる作品ですよ。
今回は、「30代におすすめのAmazonプライム・ビデオで観ることができる隠れた名作映画」をテーマに『すばらしき世界』『(ハル)』『幸せのレシピ』をご紹介しました。30代は人生においてイベントが多い年です。家族が増えたり、ジョブチェンジをしたり、という方も多いのではないでしょうか。そして、そんな時こそ新しい価値観を持てたり、人生のリスタートができたりと、一皮剥けられるタイミングも転がっていますよね。
私もついこの前、やっと30歳になりました。“大台だ!”と思いつつも、とっても楽しみ。できることが増えて視野も広がり、人生の新ステージに辿り着いたことをひしひしと感じています。30代も全力で楽しみます!
『すばらしき世界』
出演:役所広司、仲野太賀、
Prime Videoで配信中
『(ハル)』
1996年 日本 118分
Prime Videoで配信中
『幸せのレシピ』
2007年 アメリカ 104分
Prime Videoで配信中
阪実莉(さか みのり)
北海道札幌市出身。学生時代は、ドキュメンタリーと心理学を専攻。野外上映・空間演出の分野で活動したのち、現在はDo it Theaterでアートディレクター・プロデューサーをしています。人生のバイブル作品は映画『あの頃ペニー・レインと』、漫画『NANA』。好きなゲームは修行ゲーと謳われるクラッシュバンディクー2。裏ステージへ挑んだ後にプレイする万里の長城を走るゲームが好きです。
●Do it Theater(ドゥイット・シアター)
“あたらしいシーンは、Theaterからはじまる”をテーマに、シアター体験を作り出すプロデュース&クリエティブチーム。FUDGE主宰の「Holiday Circus(ホリデーサーカス)」ではコンテンツクリエイションとして参加。また 累計6万人以上が来場した野外シアター「品川オープンシアター」や横浜赤レンガ倉庫・マリンアンドウォークヨコハマなど5会場同時開催の「SEASIDE CINEMA」、ミニシアター支援を目的とし全国5箇所でキャラバン開催したクラウドファンディングプロジェクト「ドライブインシアター2020」など、映画を観るだけではない、総合演出された新しいスタイルのシアター体験を全国に作り出しているチームです。
www.ditjapan.com
design_Koinuma Kenichi
edit_Takehara Shizuka