ニュース裏表 峯村健司 中国とバチカン急接近の背景 バチカン出張ルポ第1弾 共産党員に迫る信者数、習政権が規制強化も 長年続いた対立関係に終止符
zakzak by夕刊フジ / 2024年10月12日 15時0分
筆者は9月末、イタリアとバチカンに出張した。大学などでの講演のほか、ローマ教皇庁(バチカン)幹部らとの意見交換が目的だった。
バチカンは、東京ディズニーランドとほぼ同じ面積で、人口約800人のほとんどが聖職者や教会関係者だ。サンピエトロ大聖堂や、バチカン美術館が有名で、年間約700万人の観光客が訪れる。
1929年に独立した主権国家としてイタリアに認められ、教皇庁がカトリック教会の最高機関であり、各国と外交関係を持っている。世界最小の主権国家でありながら、13億人のカトリック信者を束ねる総本山でもあるのだ。
バチカンが今、アジア政策をめぐって揺れている。
バチカンは51年、司教の任命をめぐって中国と対立・断交し、台湾と外交関係を継続している。その後、中国はバチカンの承認を得ずに司教を任命し、バチカンが司教を破門にした経緯がある。中国のカトリック信者は、中国政府の公認教会と、バチカンへの忠誠を優先する非公認の「地下教会」に分裂している。
筆者も北京特派員時代、「地下教会」を取材した。
2010年に訪れた中国東北部にある北朝鮮との国境沿いの村では、農家の居間に隠し扉があり、小部屋には小さい木製の十字架が置かれていた。週末になると、近所の農民や北朝鮮からの脱北者らが身を潜めて祈りをささげていた。地元当局に見つかって摘発されたり教会を破壊されたりするケースが後を絶たなかった。
米人権団体「フリーダムハウス」の分析(17年)によると、中国ではプロテスタントの信者が6000万~8000万人、カトリックが1200万人程度いるという(地下教会を含む)。これは中国共産党員(9800万人)に迫る勢いだ。
こうした状況に危機感を抱いた習近平政権は「宗教の中国化」を掲げ、18年に中国当局の許可を得ない集会を処罰するなど「宗教の規制強化」に乗り出した。
一方、バチカン側の対中政策には変化が出ている。16世紀にアジアへの布教で実績がある「イエズス会」出身のローマ教皇フランシスコが13年に就任してからアジアとの関係を重視し、水面下で中国との融和を模索し始めた。
18年には、中国側が国内の司教候補者を選んでバチカンに通達し、ローマ教皇が承認することで暫定合意を結び、長年続いた対立関係に終止符を打った。これによって中国との関係改善に弾みがつき、教皇庁幹部と中国側との接触は増えた。
「高貴な中国の人々に温かいあいさつを送りたい。中国の全ての人々の幸福と弛(たゆ)みない前進を願う。また中国のカトリック信徒には、良きキリスト者、良き市民であるようお願いする」
こうした中国とバチカンの急接近の背景には、それぞれに深遠な思惑がある。そして、この両国関係の変化は、東アジアの安全保障にも直結しかねない問題なのだ。次号で詳しく解説していきたい。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)
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