ドクター和のニッポン臨終図巻 「徳洲会」創設者・徳田虎雄さん、二度と現れない医療界のカリスマ 医師会と喧嘩しながら、病院を無医地区に次々と創設
zakzak by夕刊フジ / 2024年7月22日 15時30分
仕事柄、たくさんの人と握手をしてきました。握手とは不思議なもので、たった数秒のことなのに相手の人間性やエネルギーを感じるときがあります。
この人と握手をさせていただいたのは、僕が医学生だった頃。近くの大学に、講演会を拝聴しに行きました。講演の後、少しでも話がしたくて声をかけました。すると不意に手を差し出され、「君、卒業したら徳洲会に来ないか?」と言われ驚きました。あのときの手の大きさ、力強さ、体温は今でもしっかりと覚えています。
全国に76の病院と、診療所や介護事業所など300以上の施設、そして4万人の職員を抱えるわが国最大の民間医療法人グループ「徳洲会」を創設、衆院議員も通算4期務めた徳田虎雄さんが、7月10日、神奈川県内の病院で亡くなりました。享年86。
医療界にこれ以上のカリスマはもう、現れないでしょうね。徳田さんは兵庫県生まれ。2歳のときに鹿児島県・徳之島に家族で移住します。当時の徳之島では十分な医療が受けられず、徳田さんが小学生のとき、3歳だった弟が腹痛に苦しみながら急死しました。虎雄少年は夜道を駆けて島の診療所に往診を頼みましたが、徳田家が貧しかったこともあり、なかなか応じてもらえず手遅れになったといいます。その悔しさと怒りで、徳田さんは医師を目指します。大阪大学を卒業後、1973年に徳田病院を開院。その後、「24時間365日無休」「どんな患者も断らない」「生命(いのち)だけは平等だ」など多くのモットーを掲げ、医師会と喧嘩(けんか)しながら、徳洲会病院を無医地区に次々と創設します。そして、1990年に政界へ。
しかし2002年、64歳のときにALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されました。ALSは運動を司(つかさど)る神経(運動ニューロン)に障害が起きることで、手足や喉、舌を動かす筋肉が徐々にやせて動かなくなっていく難病です。視力や聴力、内臓機能などは保たれます。
徳田さんは2004年頃より病状が悪化し、翌年政界を引退。その後もしばらくは、鎌倉市内に自分が建てた病院の最上階特別室からグループを統率していたそうです。闘病20年。医療のために命を完全燃焼させたように思えます。
あのときの握手があったからこそ、僕も24時間365日、どんな患者も断らず65歳まで夢中で働き続けました。その強引な手法には賛否両論ありましたが、「生命だけは平等だ」という言葉に噓はなかったはずです。
「子孫に美田を残さず。人生はカネではない。愛と心だ。人を相手にせず、天を相手にせよ」
こんなことを言える医者が今、他にいるでしょうか? 僕にとっては、永遠のカリスマです。
■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。公益財団法人日本尊厳死協会副理事長としてリビング・ウイルの啓発を行う。映画『痛くない死に方』『けったいな町医者』をはじめ出版や配信などさまざまなメディアで長年の町医者経験を活かした医療情報を発信する傍ら、ときどき音楽ライブも。
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