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山上信吾 日本外交の劣化 「心の知能指数」が低い外務官僚 同情や共感の不足が顕著 中国・深圳で児童殺傷も「いつ起きてもおかしくない」と駐中国大使

zakzak by夕刊フジ / 2024年11月16日 10時0分

東京・霞が関の外務省(夕刊フジ)

外務省退官以来、日本各地で講演をし、インタビューに応じる日々を送っている。年内は、名古屋市や、茨城県鉾田市、山口市、山口県宇部市、鹿児島市、来年初頭は青森県弘前市、同・八戸市、金沢市など。

40年間の外交官生活の大半を、東京と在外の任地との間の往来に費やし、日本の地方を知る機会が極めて少なかった身にとって、「目から鱗(うろこ)」の思いだ。

私を待ち受けている質問(批判)には、大別すると2種類ある。

「なぜ、外務省はこれほど弱腰なのか?」「なぜ、外務官僚は気取っていて冷たいのか?」

「弱腰」と言われるたび、3つの要因を説明している。「日本人のお人よし」「足して2で割る外交観」「政治家の胆力と定見のなさ」だ。弱腰外交は外務省だけの問題ではない一方、外務省の責任は重い。

目の前の相手と共通項を見いだすのに執着し、主権、領土、歴史認識など、国家として譲ることができない問題があることへの理解が決定的に弱い。筋を通した背骨のある対応ができていない。

岸田文雄政権から、石破茂政権へと連なる「対中姿勢」が好例だ。

日本の排他的経済水域(EEZ)への弾道ミサイル撃ち込みや、日本産水産物の全面禁輸、日本のEEZや大陸棚でのブイ設置、駐日大使の暴言、靖国神社での乱暴狼藉(ろうぜき)、中国在留邦人への相次ぐ斬りつけ殺傷、領空侵犯や領海侵入…。「反日・侮日」行為が続いても「遺憾」と連呼するのみ。毅然(きぜん)と厳正な抗議、申し入れさえできない国に堕してしまった。

時の首相が、習近平国家主席との首脳会談実現にこだわろうが、「言うべきは言う」を貫くのが吏道(りどう=官僚の役目)のはずだが、廃れてしまったのか?

同様に深刻なのは、「EQ(心の知能指数)の低さ」だ。

苦境にある人への同情や共感の不足が顕著なのだ。かつては北朝鮮による拉致被害者への冷たい対応が強く批判された。今は、中国にスパイ容疑で拘留されている日本人や、殺傷された在留邦人への対応だ。

「駐中国大使が被拘留日本人に面会に行こうとしたら、外務本省に止められた」という信じられない話が伝えられている。蘇州での2回目の斬りつけ事件の際、金杉憲治大使は「個人的には日本人を対象にした犯罪とは思わない」などと何の根拠も示さずに言い放った。

深圳で10歳の児童が母親の眼前で白昼メッタ刺しに遭い、内臓が飛び出すほどの深手を負って落命した際、垂(たるみ)秀夫前大使は「いつ起きてもおかしくないと思っていた」とメディアに吐露した。

被害者の苦しみと遺族の絶望に思いを致し、一緒に嘆き、怒ることがなぜできないのか。どこか決定的におかしいと思うのは私だけだろうか? 改革は急務だ。

山上信吾(やまがみ・しんご) 外交評論家。1961年、東京都生まれ。東大法学部卒業後、84年に外務省入省。北米二課長、条約課長、在英日本大使館公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官、国際情報統括官、経済局長、駐オーストラリア大使などを歴任し、2023年末に退官。現在はTMI総合法律事務所特別顧問などを務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に『南半球便り』(文藝春秋企画出版)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)。

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