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岩田温 日本の選択 自民党派閥の長所「自由な雰囲気」が担保 興味深い伊吹文明氏の分析 壊した「小選挙区制度の導入」執行部が強大に異を唱えられず

zakzak by夕刊フジ / 2024年9月5日 11時0分

伊吹文明氏の著書『保守の旅路』(夕刊フジ)

「派閥を解消する」との岸田文雄首相の決断は、あまりに唐突なものだった。長年続いてきた制度の変更を断行するのであれば、多くの人々の声に耳を傾けるべきであった。政治信条に「聞く力」を掲げながら、重要な局面で岸田首相は「聞く力」をまったく発揮することができなかった。

とりわけ耳を傾けるべきであったのは、派閥全盛期であった中選挙区時代の政治を知る「長老の声」だ。

伊吹文明元衆院議長の分析は興味深い。彼は著書『保守の旅路』(中央公論新社)の中で次のように語っている。

「かつて自民党は、中選挙区制の下で派閥合衆国と揶揄(やゆ)され、派閥の弊害はいろいろあったのですが、その一方で自由な雰囲気もありました」

長年続いてきた制度には一長一短がある。人間が完璧な制度などつくれないのは当然だが、完全に「悪」としか断ぜぬ制度が持続するはずもない。

自民党の派閥の弊害とは、間違いなく「金権政治」に陥らせた点にある。過去の総裁選を振り返れば、あまりに巨額の「実弾」(現金)が飛び交っていた。この部分を剔抉(てっけつ=えぐり出す)しなければ、国民の政治不信は払拭されないと考えたのは理の当然だ。

しかし、派閥にも長所があった。政策の勉強や新人教育などに加え、伊吹氏のいう党内における「自由な雰囲気」は、その長所に他ならなかった。時の執行部の見解に対し、反論する自由が担保されていた。仮に執行部からにらまれようとも自民党を追放されることはなかったのだ。

こうした自由な雰囲気を壊したのが、派閥の力を弱め、執行部の力を強大なものとする「小選挙区制度の導入」だ。執行部が公認権を独占する小選挙区制度では、必然的に派閥の力が弱まる。派閥の領袖(りょうしゅう)であれ、いかなる国会議員であれ、執行部に異を唱えることは、自身の公認が得られなくなる可能性が高い。結果、執行部の見解に唯々諾々と従う国会議員が増えることになる。

多くの政治家は制度の下で許された権限であっても、その行使には抑制的だった。

しかし、この制度を徹底的に活用した首相が存在した。小泉純一郎元首相である。郵政民営化選挙の際、執行部とは異なる意見を有する政治家は公認せず、刺客を立てた。自民党の功労者であった綿貫民輔元衆院議長、亀井静香元政調会長、平沼赳夫元経産相といった政治家は非公認とされた。執行部の強大な力を見せつける選挙に他ならなかった。

実力は小さくなったものの派閥は存続し続けた。その派閥をすべて解消した先には何が待っているのか。岸田首相が明確なビジョンを持って派閥を解消したとは思えない。

■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。大和大学准教授などを経て、現在、一般社団法人日本学術機構代表理事。専攻は政治哲学。著書に『興国と亡国―保守主義とリベラリズム』(かや書房)、『後に続くを信ず―特攻隊と日本人』(同)、『新版 日本人の歴史哲学~なぜ彼らは立ち上がったのか』(産経新聞出版)など多数。ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。

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