大鶴義丹 やっぱりOUTだぜ!! 俳優の心を壊す「ヒマ」という時間 常に背後に存在、唯一の乗り越え方は「プライドや収入に左右されず演じ続ける」こと
zakzak by夕刊フジ / 2024年10月1日 15時30分
この猛暑に奮闘した舞台「リア王」の公演が終わった。
しかし、休む間もなく、この9月は、今年8作品目の舞台への出演である、新宿梁山泊の「ジャガーの眼」という作品の稽古が続いた。
この戯曲は、父である唐十郎のもので、初演は1985年。今回、私が演じるのは、かつて父が演じた探偵・田口。
また、今回の公演は斬新な企画でもあり、かのTBS・赤坂サカス敷地のど真ん中に、10月14日から紫のテント劇場を建ち上げる。
昨今、他所さまの劇団などの話を聞いていても、コロナ自粛の反動ということも関係しているが、この手の演劇公演における観客の動きがとても良い。
そんな流れに反応してか、稽古期間や手間ばかりがかかってコスパが悪いはずなのに、メジャーなテレビなどを主戦場にしていた俳優などが「採算度外視」で参入してくるようなケースも増えた。
私がデビューした1980年後半のバブル前後などは、とにかくテレビのパワーが多ジャンルを圧倒しており、俳優たちは舞台演劇を後回しにしても、テレビに出ることを優先していた。
しかし、その弊害も大きかったと感じている。基礎訓練をしないまま、お茶の間のスターとなっても、旬が過ぎた後に大変なことになる。
その半面、舞台演劇の技術をベースに、テレビや映画へと仕事の幅を広げた方は「地盤」が桁外れに強い。
舞台演劇の在り方が大きくなるというのは、とても良い流れだと感じている。俳優たちの「メディア・ポートフォリオ」の適正化だ。
すべての俳優たちが絵に描いたようにうまく稼ぐことはできない。
特に舞台演劇というのは、俳優の生活にとってコスパ&タイパが極端に悪いのは知れた話だ。後輩たちからもその手の相談をされることも少なくはない。
しかし、だからといって、昔のようにあふれかえるテレビドラマで「日銭」が稼げた時代でもない。
古今東西、俳優の仕事で、必ずうまくいく方法というのは存在しない。スターになっていく者もいれば、転落する者、再びはい上がる者もいる。魑魅魍魎の世界なのだ。
実際に見てきたケースでは、才能よりも「しつこさ」が勝ることがある。
その逆に輝くような才能があっても、道半ばで多くの俳優たちが心を折ってしまうこともある。
その一番は「ヒマ」である。俳優たちは本質的に、まさに馬車馬のごとく 左右を顧みず突進することに生きがいを感じるタイプの人間が多い。
「ヒマ」とは、そんな俳優の本能に反した時間なのだ。だが、人気商売ゆえに「ヒマ」は常に背後に潜んでいる。
唯一の乗り越え方は、プライドや収入に左右されずに果てしなく演じ続けること。それが俳優の心を補完し続ける。
住宅ローンや子だくさんなど、普通の幸せを求めてはいけない。
難しいことだが、その「しつこさ」が10年スパンで考えると、結果的にすべてに勝ってしまうことが多い。
まさに長期のインデックス投資の「握力」のようなものか。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。
10月14~23日に、東京・赤坂サカス広場特設紫テントで上演される新宿梁山泊の「ジャガーの眼」の舞台に立つ。
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