カワノアユミの盛り場より愛を込めて 熊本の〝夜の街〟が一変、喧噪が消え…インバウンド増加が引き金か 悪質な客引きの取り締まりに「人の目を気にする」傾向も
zakzak by夕刊フジ / 2024年10月10日 15時30分
今月、久しぶりに熊本を訪ねてきた。熊本は九州でもひときわ異彩を放つ街だ。中洲や小倉などの華やかさとは異なり、熊本市内の上通(かみとおり)や下通(しもとおり)周辺は、平成の頃そのままに雑多で生命力にあふれたエネルギーを感じさせる繁華街だ。
路地に入ればスナックの看板が立ち並び、客引きの若い女性たちが声をかける様子は2000年代初頭の歌舞伎町を彷彿とさせ、どこか危うく妖しい空気が漂っていた。地元の人々も「まだヤクザもんが元気な街やけんね」と言うほどだった。
ところが、今回の訪問ではそんな熊本の街の表情が一変していた。夜の通りからは雑踏が消え、活気にあふれていた客引きもいなくなって、代わりに制服姿の警察官や地域の見回り隊を多く見かけるようになっていた。
この変化の理由を地元の知人に尋ねると、数年前から悪質な客引きの取り締まりが本格化したためだという。しかも、日本人ではなく外国人観光客を狙った客引きが急増していると説明した。
熊本市周辺では22年から建設が始まった半導体の受託生産で世界最大手の「TSMC(台湾積体電路製造)」の第1工場が今年2月に開所。台湾から駐在員や家族が訪れるようになったほか、インバウンドの増加で中国人や欧米人ら多くの観光客の姿も街中で目立つ。
悪質な客引きへの取り締まりが強化されたのもそのためだという。しかし、地元の人々の反応は複雑だ。外国人観光客で飲食店はにぎわっても、夜の街の人影はすっかり減ってしまったからだ。
原因は取り締まり条例や警察の目が増えたことで、外に出づらくなったと感じる地元の人が少なくないためだ。熊本には「地元を離れたがらず、家族を大切にする」県民性があるのだという。そんな人々が夜の街に出ると、すぐに知り合い同士の顔がそろって噂も広がりやすい。だから熊本の人々には、特に「人の目を気にしやすい」傾向が強いのだとも聞いた。
こうした気質は市内の盛り場の無料案内所にも見られる。東京や大阪の案内所ではキャバクラやスナックの女性キャストの写真が掲示されていることが多いが、熊本の案内所では店内のつくりを紹介する写真のみでキャストの写真は見当たらない。地元だからこそ夜の街で働いていることを知られたくないのだろう。
治安の向上は歓迎すべきことではあるが、雑多な雰囲気が残っていたほうが、街に遊びに行く楽しさや刺激はある。かつての喧噪(けんそう)が消えた夜の街の静けさについて話す熊本の人々の言葉の端々にも、寂しさがにじんでいた。
■カワノアユミ 20代を歌舞伎町と海外夜遊びで過ごした元底辺キャバ嬢。現在は国内外の夜の街を取材。著書に、アジア5カ国の日本人キャバクラで9カ月間潜入就職した『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)。
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