桜林美佐 国防最前線 海自潜水艦めぐる川重裏金問題で「特別防衛監察」 隊員に高い意識と知識が必要 自腹、持ち出しをなくす施策も
zakzak by夕刊フジ / 2024年7月17日 6時30分
海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡み、川崎重工業が裏金を捻出し、乗員が物品や飲食などの供与を受けていたとして「特別防衛監察」が実施されることになった。
海に出れば「密室」になるとも言える艦艇、そこで起きていることは外から見えないだけに管理は難しい。個々の隊員が、高い意識と知識を持つ必要がある。
昨今、規則の厳格化が進み、申請していない隊員がカレーを食べたとか、パンを多く取ったなどといったことでも処分者が次々に出ている。「してはいけないこと」の一層の周知徹底が必要になっていることを、今回の事案では思い知らされる。
ところで、自衛隊で講師などを呼んで何らかの勉強をした際に会食があった場合、その代金は隊員の誰かが払ったり、ゲスト以外の参加者で割り勘をしていることを知らない人は存外多い。野暮は好きではないが、自衛官の活動では領収書をもらって精算されるようなことは基本的にはない。
運用現場の隊員が自分たちの装備を確認するために、どこかの工場に出向いたり、研修をしたくても経費がない。高額な装備を導入することが、そもそも「悪いこと」のように言われ、少しでもムダ遣いがあってはならないという意識と制度の中にいる自衛官は、活動に必要なものさえも自腹で購入したり、費用を捻出している事実がある。
その様子を目の前にした企業が手を差し伸べる構図もあったことも想像できる。だからといって架空取引で資金をつくってはならないが、こうした背景を鑑みれば、必要経費について自衛官の自腹、持ち出しをなくす施策も併せて行われていいのではないか。
造船所の人々と隊員が家族同様になって艦の性能向上に努めるのはむしろ大事なことだと思う。一方で、自衛官上位の主従関係が無意識にも働いているならば、それは厳に改めるべきだ。
「只今から出港し、国家防衛の任に就く!」
完成した艦艇は造船所を出て、艦長のこの言葉とともに出港していく。そして、その日がどんな悪天候でも造船所の人たちが手を振って見送る。両者の国防への思いに偽りはないはずだ。
海に出れば私たちには見えないが、日々の平和を創出してくれていることは間違いない。風雲急を告げる安全保障環境のなか、防衛力の抜本的強化は「待ったなし」の状況だ。
そのために防衛産業の力もまた欠かせない。今回の事案が、ますます両者の関係をいびつにすることなく「真の友情」に成熟することを願っている。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書・共著に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気』(PHP研究所)、『危機迫る日本の防衛産業』(産経NF文庫)、『陸・海・空 究極のブリーフィング』(ワニブックス)など。
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