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実録・人間劇場 アジア回遊編~インド・ネパール(17)チャイを飲みほした後、コップを叩き割るワケ いまも根付くカースト制度を実感

zakzak by夕刊フジ / 2024年6月14日 6時30分

ガンジス川の水で歯磨きをする人たち=インド・バラナシ(夕刊フジ)

インド北部のバラナシに来てあっという間に1週間がたった。特に何かをしたわけでもないのだが、退屈さを感じることもなく気付けばその日数が過ぎていた。

現地の物価から考えれば目玉が飛び出るほど高額なツアーに参加することもなければ、女遊びをしたわけでもない。朝は散歩、昼も散歩、夜も散歩。ほとんど金を使うこともなく、一日中刺激を味わうことができる。バラナシという街は貧乏旅行者の需要にこれ以上ないほどマッチした場所なのだ。

朝の散歩の前に必ず訪れていた場所がある。その辺の道端に露店を出しているチャイ屋だ。通勤前の男性や通学前の学生が立ち寄り、温かいチャイをすすってからそれぞれの持ち場へ向かう。1杯10ルピー(2017年当時のレートで約17円)のチャイは粘土を素焼きして作ったコップで提供されるのだが、みんなチャイを飲み終わると、そのコップを地面に叩き付けて割ってしまうのだ。ゲストハウスで一緒になった日本人がこんなことを言っていた。

「宗教的な問題だと思うけど、インド人は他人が口を付けたものを使いたがらないからね。あと、このコップを作る仕事をしている人もいっぱいいるわけだからね」

カースト制度という身分制度は現在、法的には禁じられてはいるものの、今でもインドに根付いていると言われている。生まれながらのカーストは変えることができず、職業や結婚相手もカーストによって決まるそうだ。つまり、きれい事を言えば、この素焼きのコップを叩き付ける行為は、コップを作る人たちの職業、ひいては粉々になったコップを掃除する人たちの職業を尊重することにもなりうる。

ただ、インド人にとっては人生を左右する大事かもしれないが、日本人である私にとってカースト制度なんて正直言うと何も関係がない。

「コップを割るって気持ちいい」

そんな心持ちで毎日コップを地面に叩き付けていたが、きっとインド人たちも深くは考えていないだろう。

チャイを飲んだ後はスマホのマップを閉じ、街中に張り巡らされた巨大迷路のような細い路地をひたすらほっつき歩く。

「ガンジャ(大麻)があるぞ?」とニタニタ顔で手招きしてくるインド人にポケットの中に入っているラインアップを見せてもらったり、声をかけてきた客引きに付いていったりしていると、今自分がどこにいるかなんてすぐに分からなくなってしまう。

しかし、焦ることはない。ヒンドゥー教の聖地と呼ばれるこの街には84のガート(川沿いに設置された沐浴や葬礼の場)がある。より人の声がする方へ、より光が差し込む方へと歩いて行けば、必ずどこかのガートに出るのだ。

■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。

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