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椎名誠の街談巷語 物流で本物のカンガルー、ピューマ便で巨万の富!? 対動物「挨拶コトバ」韓国はエラソーさなく、スペインは可愛い…電話のよびかけ

zakzak by夕刊フジ / 2024年9月20日 15時30分

動物とあいさつや言葉が交わせたら、本物の「カンガルー便」も実現するだろうか?(夕刊フジ)

久しぶりに映画「白い馬」を見た。三十年ぐらい前にぼくがモンゴルの草原で撮った遊牧民の映画だ。ウランバートルから百二十キロほど離れた草原だったがモンゴル人の俳優とスタッフ合計五十人、日本人三十人ほどの集団で一カ月ほどキャンプしてのロケだった。

大勢の共同生活だから毎日タイヘンだった。とりわけ離れたところにいる人々との連絡は綿密さが必要だった。当時は携帯電話ではなくハンディトーキーを使うしかなかったが、これがうまくいかなかった。

モンゴルの電話で最初にいうコトバは「サインバイノウ」だ。「サイン」は「元気」。「バイノウ」は「~しているか?」で、忙しいときは「バイノウ(いるか?)」だけになる。

こちらが「(そこに)いるか? いるか?」と聞いても、相手がどこか近くで「ノグソ」でもしているときはハンディートーキーだけが草原のどこかで叫んでいる、という光景になった。マンガ風に描くなら、「太陽がいっぱい」の草原で、受話器だけが「いるか!? いるか!?」と叫んでいるという構図だ。アニメなら誰もいない中で受話器がわめきながら飛び跳ねるといった描写になるだろうが、そんな連絡のとりあいよりは、バイクや馬を走らせたほうが早くて確実だった。

電話のよびかけは第一印象そのものだから大事である。

日本の電話での基本の「もしもし」はもとは「申す、申す」だ。モンゴルにしても日本にしても、どこか親父がえばって怒鳴っているような光景に思える。

韓国語の「ヨボセヨ」は語源といわれる「ヨギボセヨ」が「こちらを見てください」という意味だから、親父的エラソーさがない。

スペイン語のOIGAは「聞こえますか?」「聞いていますか?」「聞いてください」という意味らしいからなんだか可愛い。

イタリア語のPRONTOは「準備できています」だから丁寧だ。マフィアがキリキリした声で「これから殺しにいくぜ、いいか」という予告の返事だったりして。

「ハロー」や「アロー」は言うのも聞くのもあっさりして通りがいい。中国語の「ウェイ」は日本語の「もしもし」に近い感覚のようだ。

これからは対動物の挨拶言葉が実現したら素晴らしい。未来の世界ではますます老人介護のために、人間と動物間の「通話機能」や言葉が大切になるだろう。オウムやヨウムなどとは、反復コトバではない意味の通じあう言葉が、たとえ電話的挨拶コトバだけでも開発されたら、そのシステムやカリキュラムに大きな期待と需要がむけられるのではないだろうか。

会話機械や動物別会話教育なんかにも期待がもてる。物流会社やそのシステムがストライキやエラーをおこしたとき、本物のカンガルー便とかピューマ便などが代わりを務められれば、うまくいったら巨万の富が待っているんじゃないかねえ。ただしカンガルー便は三キロまでで、飛び跳ねるから蓋なしの液体は不可だ。

■椎名誠(しいな・まこと) 1944年東京都生まれ。作家。著書多数。最新刊は、『続 失踪願望。 さらば友よ編』(集英社)、『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)、『机の上の動物園』(産業編集センター)、『おなかがすいたハラペコだ。④月夜にはねるフライパン』(新日本出版社)。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttps://www.shiina-tabi-bungakukan.com

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