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山上信吾 日本外交の劣化 安倍外交の「北方領土交渉」とは何だったのか 実現する方途を提示すべき外務官僚が機能不全、劣化の極み

zakzak by夕刊フジ / 2024年7月25日 11時0分

北方領土問題などを話し合った安倍首相(右、当時)と、ロシアのプーチン大統領=2016年12月、山口県長門市の「大谷山荘」(夕刊フジ)

日の丸を背負う「気概と矜恃」を感じることが稀(まれ)な岸田文雄政権のふがいない外交姿勢を見るにつけ、「安倍外交」が一種の憧憬と郷愁を持って思い返されるこの頃である。

しかし、将来に誤りなきを期すためには、手放しの礼賛は禁物だ。冷徹に是々非々で得失を論じるべきだろう。

そうした観点からは、やはり「あの北方領土交渉は何だったのか?」という省察は不可欠だと思う。

「日本最大の離島」(沖縄本島よりも大きい)と称されてきた択捉、そして「第2の大きな離島」である国後をあきらめれば、色丹、歯舞諸島の「2島」は返ってくるのではないかとの幻想と期待値を高めながら、具体的成果につながらなかった。

「中露に楔(くさび)を打ち込む」との正当化は、その後のウクライナ戦争をめぐる中露接近、ウラジーミル・プーチン大統領再選後の訪中などを見るにつけ、ナイーブな期待に終わった感は否めない。

「自分でなければまとめられない」という保守政治家としての安倍晋三首相(当時)の意気込みは横に置くとして、冷徹に国益を計算し、それを実現する方途を提示すべき外務官僚が機能不全に陥っていたと言われて致し方ない惨状だ。

「プーチン氏であれば解決できる」と期待値を高めたものの、そのプーチン氏こそが、2008年にジョージア(当時グルジア)に侵攻し、14年にはクリミア半島を奪取していたのだ。

拙著『日本外交の劣化:再生への道』(文藝春秋)でこうした北方領土交渉のあり方を厳しく批判し、「仕切り直し」を求めたせいだろうか?

先日、ある経済団体で日本外交について講演をする予定で赴いたところ、困惑顔の団体関係者から「在京ロシア大使館の館員が居座って動かない」と相談を受けた。会員企業限定ということでお引き取りいただいたが、その過程では「差別だ」などと口走っていたという。

また、「もしトラ」が現実的可能性を帯びて語られるなか、「ドナルド・トランプ米政権が復活するとウクライナ支援が止められる。であれば、今こそ停戦交渉を始めるべきだ」と、したり顔で論じる外務省出身者が目立ち始めた。

この議論が誰を喜ばすかは一目瞭然だ。ウクライナ政府中枢にいる私の知人は、こうした論者を「(ロシアにとって)使い勝手の良いおバカども(useful fools)」と呼んで軽侮の念で見ていた。

まさに、時代は「プロの出番」なのだ。戦争に負けて失った領土を外交で取り返すのであれば、100年単位の長期戦を覚悟すべきは世界標準だ。そうした良識と知恵こそ、外務官僚が発揮し、政治にインプットすべきなのに、できていない。劣化の極みだ。

■山上信吾(やまがみ・しんご) 外交評論家。1961年、東京都生まれ。東大法学部卒業後、84年に外務省入省。北米二課長、条約課長、在英日本大使館公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官、国際情報統括官、経済局長、駐オーストラリア大使などを歴任し、2023年末に退官。現在はTMI総合法律事務所特別顧問などを務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に『南半球便り』(文藝春秋企画出版)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)。

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