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実録・人間劇場 アジア回遊編~インド・ネパール(24)「恵まれた日本に生まれた自覚はあるか?」ネパール人青年の言葉に不意を突かれる

zakzak by夕刊フジ / 2024年8月2日 11時0分

パシュミナ屋の青年の自宅=ネパール・カトマンズ(夕刊フジ)

ネパールの首都カトマンズの商業エリアである「インドラチョーク」は、一日歩いていても飽きることがない。ヒンドゥー教と仏教の施設が交じり合い、細い路地に入れば商人たちが衣服、生活用品、仏具などさまざまなものを売っている。それでいて、インドのようにうっとうしい客引き行為もほとんどない。

カトマンズはヒマラヤ山脈のふもとに位置する。エベレスト、アンナプルナなどの名峰に囲まれ、街には世界中からやってきた登山客の姿も多い。そんな旅人たちに向けて、インドラチョークでは登山用グッズも豊富だ。中には偽ブランド品もあるが、80リットルの登山用バックパックが3000円ほどで売っていて、かなりのお得感がある。

カトマンズは日本料理店も充実している。メニュー表を見ると、「カツ丼」が「カツボン」になっていたり、「鶏のからあげ」が「トリカラージュ」になっていたり、表記はめちゃくちゃだが、味は日本のショッピングモールにあるフードコートくらいのクオリティーは担保されている。とにかく、母国に疲れた旅行者が長期滞在するには事欠かない街である。

そんなカトマンズで1週間近くのんびり過ごし、帰国前日に友人への土産物でも買おうと、インドラチョークにあるパシュミナ屋を訪れた。パシュミナとはヤギから採れるカシミヤ繊維を織り上げて作られた女性に人気のストールだ。どれも手に取るだけで丁寧につくられていることがわかるが、そのぶん日本円にして3000~4000円と、ネパールにしてはかなりの高級品である。

私は当たり前のように店主の青年に値切りを試みた。すると、彼はけげんな表情を浮かべながらこう説いてきた。

「裕福な国の人たちほど簡単に値切りをしてくるんだ。君は自分が日本という国に生まれた時点で恵まれているという自覚はあるか? ネパール人たちがどんな生活をしているか知っているか?」

青年の月収を聞いて驚いた。早朝から晩まで働いてたったの2万円だという。カトマンズの物価の安さに喜んでいたが、さすがにその月収では生活できる気がしなかった。

パシュミナを2枚買うと、青年が自宅に招待してくれた。カトマンズ市内にあるボロアパートにベッドを2つ並べ、友人と一緒に暮らしていた。当然、エアコンはなく、トイレは共同のボットン便所。水は井戸から自分でくんでこなければならない。

一日中働いて、帰ってくるのがこの部屋では、正直、私は耐えられない。それでいて、先進国からやってきた金と時間を持て余した旅行者から値切りなんてされたら、はらわたが煮えくり返るだろう。私はこれまで東南アジアの各国でしてきた自分の行いの数々を恥じざるをえなかった。

■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。

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