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椎名誠の街談巷語 いま、そこにあった危機!新幹線であわや女性と正面衝突 揺れる車内でいきなり単独転倒 もしぶつかっていたら…考えると「ゾォーッ」

zakzak by夕刊フジ / 2024年7月26日 15時30分

まさかこんなところでひっくり返るとは。最悪の事態はまぬがれた(夕刊フジ)

盛岡駅に入線していく東北新幹線のなかでトイレに行こうと客車を出たら、トイレ前の床に娘がしゃがんでスマホをいじっていた。

列車は駅などに入るときに大きく揺れる。突然後ろに引っ張られるようなかっこうで、なんと転倒してしまった。列車のなかで転倒なんて初めてのことだった。

背中のほうから激しく倒れた。

単独転倒だった。むかし柔道をやっていたからそのおかげだろうか。頭は打たなかった。しゃがんでいる娘さんとトイレとの「ちょうどあいだ」に倒れた。

急いでおきあがった。とりえあえず自分の背中のあたりが痛いだけであとはナニゴトもなかった。

トイレをすませ、自分の席に戻ってじわじわと思ったのは、最悪の事態はまぬがれたな、という実感だった。

倒れた角度が少しでも違ったら、たとえばしゃがんでいる娘さんにモロにぶつかっていたらひどいことになった筈だ。三メートルぐらいのところから六五キロの人間が背中のほうからスットンデきたのである。当たりどころが悪いとどうなったかわからない。どちらかが手足を骨折、最悪は死ぬことだってあったんじゃないだろうか。この場合、ぶつけられた娘さんのほうがダメージは大きかったような気がする。考えると「ゾォーッ」とした。

もう一方の側に倒れていたら、便所の角の柱に後頭部をぶつけていた筈だ。自損事故だ。後頭部をじかに打っているような距離感だった。まったく我ながらうまい角度で転倒したものだ。

いろいろ反省しつつ盛岡駅に降りた。

頭のなかに訓が乱れとぶ。当然ながら揺れている最中に乗り物を移動するのはできるだけやめたほうがよい。トイレフロアにはなかったけれどできるだけ手すりに掴まりながら歩いていくのがよい。反省は娘さんのほうにもしてもらいたい。トイレフロアでしゃがんで背をもたれ、ずっとスマホなどを使っているのはキケンです。何がトンデくるかわからない世の中ですよ。

その日、盛岡ではシリーズでやっている大勢の前で話をする、というイベントがあった。そこで簡単にその日のアクシデントの様子を話し、知り合いの編集者らとウチアゲの乾杯をしたが、もしかしてほんのちょっと運命のハグルマが狂っていたら、あの新幹線の娘に何かたいへんな怪我をさせていた、ということもあったはずだった。

そうなると事故処理とか取り調べで動転する数々があってとんでもないことになっていた筈だった。

人生はまったくわからないものだ。打ちどころが悪く、もしかしてあの娘が死んでしまっていたら。「新幹線がいきなり揺れたからです」などと、醜く叫んでいる自分がチラチラ浮かんだ。ビールはやめて静かに帰宅した。毎日何があるかわからない。

■椎名誠(しいな・まこと) 1944年東京都生まれ。作家。著書多数。最新刊は、『続 失踪願望。 さらば友よ編』(集英社)、『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)、『机の上の動物園』(産業編集センター)、『おなかがすいたハラペコだ。④月夜にはねるフライパン』(新日本出版社)。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttps://www.shiina-tabi-bungakukan.com

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