ニュース裏表 伊藤達美 「爽やかな総裁選」は実現するのか…現職が出馬なら成立せず 初となる自民の無派閥化での戦いも「全弱政治」の始まりに
zakzak by夕刊フジ / 2024年6月28日 6時30分
「総裁選で爽やかな政策論争をしたい」と述べたのは、加藤紘一氏だった。
しかし、本人の意図に反し、加藤氏の総裁選出馬は現職総裁だった小渕恵三首相をひどく不快にさせた。温厚な性格で知られる小渕氏が、「あんたは俺を追い落とそうとしたじゃないか」と声を荒らげたというから、心底、怒っていたのだろう。
総裁選には2種類ある。一つは現職の総裁の信任を問う総裁選。もう一つは、現職総裁が辞意表明したなかで、新しい総裁を選ぶ総裁選挙だ。
「爽やかな政策論争」が成り立つ可能性があるのは後者の方で、前者のパターンは「爽やか」どころか、終わった後までしこりが残る総裁選になりがちだ。
小渕・加藤両氏が戦った1999年の総裁選もそうだった。
現職首相が出馬する総裁選では、挑戦者は現職との違いを訴えるため、現職や党の現状を批判する。現職にとっても、相手候補の得票は自分への批判票とみなされる。だから、あらゆる手段を使って相手陣営の切り崩しを図る。
これが、感情的なしこりとなってしまう。
はたして岸田文雄首相は出馬するのか。もし、出馬すれば、「反岸田連合」としてもまとまらざるを得ないだろう。そうなれば、「ニューリーダー競演」型の総裁選でなく、事実上の一騎打ちの様相になるのではないか。
現職首相が出馬し、敗北したのは福田赳夫首相の例だけだ。それが「40日抗争」や史上初の衆参ダブル選挙の遠因になったといわれる。政局への衝撃は、出馬せずに退陣するのと比べて比較にならないほど大きい。
逆に言えば、岸田首相としては、出馬する以上、是が非でも勝たなければならないということだ。到底、「爽やかな」総裁選になるとは思えない。
総裁選は「権力闘争」に他ならない――。そう考えると、加藤氏が目指した「爽やかな総裁選」は、最初から成立しないのかもしれない。
しかも、今度の総裁選は、初めて、麻生派を除くすべての派閥が解散した中で行われる。派閥があれば、最初から色分けが決まっているので、強引な選挙運動をする必要はないが、今や、自民党のほとんどが無派閥議員だ。投票態度の未決定議員に対する各陣営からの働きかけは、し烈を極めることになるだろう。
その過程で、さまざまな軋轢(あつれき)が生ずる可能性は高い。
「派閥がなくなれば、党内抗争はなくなる」との見方は短見(たんけん)に過ぎない。むしろ、党内ガバナンスは緩み、まとまりの悪い自民党が出現する可能性が高い。
若手議員の総裁批判は、その兆候ではないか。「一強」ならぬ「全弱政治」の始まりといえる。
派閥がなくなった自民党は、かつてないほど危険な局面に立っている。自民党は、そのことを十分自覚したうえで、今度の総裁選に臨むべきだと思う。 (政治評論家・伊藤達美)
※来週から有元隆志氏が木曜担当となります。
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