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椎名誠の街談巷語 旅の友としては苦労、雄ロバの悲哀…役目終えたら500円で〝バイバイ〟 「誰とでも何度でも」繁殖期は常に勃起状態

zakzak by夕刊フジ / 2024年4月26日 15時30分

寝るときにいろんな旅の本を読んでいる。一緒に旅をしているようで、ウイスキーとともに、毎日フトンに入ってからの楽しみだ。

小説などでは面白くなってくるとどんどんページが進み、グラスも進んで翌日に影響することがよくあるが、旅の本は区切りがいいから入眠時間のリズムのようなものができて助かる。

今読んでいるのはロバと一緒にイラン、イラク、トルコのあたりを行く日本人青年の旅話だ。そのあたりには行ったことがないので、風物や食い物などが具体的に書いてあるたびにさらに興味が増していく。たいてい動物連れの旅人は好意的に迎えてくれるらしく、とくに日本人というと歓迎されるようだ。逆にアフガン人は警戒されるそうだ。

動物連れの旅は思いがけない出来事がおきて目がはなせない。なによりもロバという動物の生態が面白いのだけれど旅の友としてしまうと苦労がたえないようだ。

田園地帯を行くことが多いが、そのあたりに暮らしている農民、遊牧民などにとって、歳とった雄のロバはまったく価値がない、と断言しているので笑ってしまう。

雄のロバはいろんな餌をすごいイキオイで食い、そのわりには働かない。唯一の存在理由は繁殖時の「種つけ」だという。雄自身も「盛り」のつく時期になると常に勃起態勢になっているらしい。「雄はつらいよ」だ。

旅のはじめの頃は餌としての草を常にバリベリボリと食っていて餌から引き離すのに苦労していたのが、繁殖期になると雌のそばから引き離すのに苦労する、という非常にわかりやすい行動で、むかしぼくの周辺にもそういう男がいた。

その旅日記の描写によると「繁殖期は常に勃起していて誰とでも何度でも」というから、日本でも繁殖盛り場を夢の場所としているオヤジたちにとっては、雄ロバはあこがれの存在となるかもしれない。餌はそこらに生えている草を食う。麦は大好物で野菜、果物にも目がない。大好物を前にした動物の描写でよく「目がない」というが、その本に沢山出てくる写真をみると「目がない」とはこの動物のことを言うんだな、とわかってくる。

熟れすぎている野菜や果実などはいくらでも食べていいようだ。街道ぞいの遊牧民はそういうことをよく知っていて、けっこういろんな餌を与えてくれる。ロバが役に立つもうひとつの仕事は荷物運びだが、背に振り分けて荷物のようにしたカゴを入れ物にして、ある程度の量までは運ぶ。旅の相棒としては食いものを選ばず、黙って話をきいてくれるから(意味はわかってはいないものの)退屈しのぎにはいいようだ。

それでもやがて繁殖期に雄として役にたたなくなってしまうと本当にムダめし食いのただのやっかいものとなり、一頭五百円ぐらいで売買されるらしい。それも運がよければ、の話らしいが。ロバの身になってみるとひっそりと哀れだ。

■椎名誠(しいな・まこと) 1944年東京都生まれ。作家。著書多数。最新刊は、『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)、『机の上の動物園』(産業編集センター)、『おなかがすいたハラペコだ。④月夜にはねるフライパン』(新日本出版社)、『失踪願望。』(集英社)。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttps://www.shiina-tabi-bungakukan.com

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