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長崎市長の愚挙と日本政府の大失態 平和祈念式典を原爆とは無関係の「政争の場」に 地方首長として出過ぎた越権行為

zakzak by夕刊フジ / 2024年8月15日 15時30分

長崎で9日、「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。長崎市(鈴木史朗市長)は不測の事態発生のリスクを懸念し、イスラム原理主義組織ハマスと戦闘中のイスラエルの駐日大使を招待しなかった。これに対し、日本以外のG7(先進7カ国)とEU(欧州連合)の大使らは、イスラエルを、ウクライナ侵略のために式典に招かれないロシアやベラルーシと同列に扱うとして式典を欠席した。「長崎市長の愚挙」「日本政府の大失態」という前駐オーストラリア日本大使、山上信吾氏が緊急寄稿した。

前駐オーストラリア日本大使・山上信吾氏緊急寄稿

開いた口が塞がらない。最大の問題は、平和祈念式典を原爆とは無関係の「政争の場」にしてしまったことだ。

7万人を超える無辜の市民が亡くなった米国による長崎原爆投下。犠牲者に哀悼の意を表し、二度と原爆の惨禍を招かない決意を確認するため、できるだけ多くの参加を求めるべきは言を俟たない。

ところが、長崎市は、広島の式典には招待されたイスラエル大使を排除した。原爆投下の是非をめぐる議論でも、核廃絶の方途でもなく、ガザ戦争をめぐる政争なのだ。

第2に、不招待の理由の政治的偏向だ。

治安を理由に挙げるのであれば、「広島よりも長崎は危ない」と市長自らが認めるのか? ガザ戦争のもう一方の当事者であるパレスチナ代表はなぜ出席できるのか?

G7大使らが反発した通り、本当の理由は「ガザ戦争におけるイスラエル批判」と受け取られても仕方ない。外交は国が行うべきことを踏まえると、地方首長として出過ぎた越権行為に他ならない。

第3に、なぜ政府・外務省は、長崎市の対応を見過ごしたのか。

上川陽子外相は記者会見で、外務省として「国際情勢を説明していた」と語った。だが、説明すべきはイスラエルを招待しないことの非と、予想された米国などの反発であったはずだ。

実際、米国の有力ユダヤ人団体は7月中旬、抗議書簡を駐米日本大使に発出していた。政府・外務省として懸命に是正を求めるべきだった。「長崎市の判断」(林芳正官房長官)との言い訳は国際的に通用しない。

第4に指摘すべきは、イスラエルの国柄である。

勉強熱心で家族思い、ホロコースト(ナチスのユダヤ人虐殺)を経験したイスラエルは「親日国」である。そして、日本人同胞の良き伴侶、友人、ビジネスパートナーにユダヤ系が圧倒的に多いことは、海外で暮らす日本人には常識だろう。

アジアの近隣諸国が「南京事件はアジアのホロコースト」などと歴史カードを持ち出すたびに、諫めてくれるのも彼らだ。そのようなイスラエルを式典から無碍に排除する無知と不見識。これこそ世紀の愚挙であり、杉原千畝(第二次世界大戦中、欧州のユダヤ人にビザを発給してナチスの虐殺から救った外交官)の功績に唾する行為だ。

さらに重く受け止めるべきは、米国大使の不参加だ。

日本の朝野(政府と民間)は長年かけて、米国大使、そして米国大統領、さらにはG7リーダーを広島に招くべく、実に息の長い取り組みを進め、ようやく実ってきた。

それなのに、長崎は何ということをしでかしたのか! 米国大使が欠席する口実を与えてしまったのだ。

■山上信吾(やまがみ・しんご) 外交評論家。1961年、東京都生まれ。東大法学部卒業後、84年に外務省入省。北米二課長、条約課長、在英日本大使館公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官、国際情報統括官、経済局長、駐オーストラリア大使などを歴任し、2023年末に退官。現在はTMI総合法律事務所特別顧問などを務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に『南半球便り』(文藝春秋企画出版)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)。

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