新田哲史 東京都知事選・大情報戦を斬る! 都知事選をパフォーマンス合戦に変貌させた〝張本人〟は!? テレビ選挙化の転換点「青島ショック」の伏線、91年の鈴木氏圧勝
zakzak by夕刊フジ / 2024年6月22日 10時0分
「いつまでも『昭和の選挙』をやっていては勝てない」
2016年の東京都知事選で、小池百合子氏が初当選した夜、敗れた自民党の若手都議は筆者に危機感をこう口にした。田中角栄元首相の名言「握手した数しか票は出ない」に象徴されるように、選挙前から住民や組織・団体をくまなく回っていくのが自民党の政治活動の基本動作だ。
しかし、都知事選の規模になると、1100万人を超える有権者全員と握手するのは不可能だ。それが故にテレビなどのメディアを使った情報戦の要素が強くなり、特に平成以後は「知名度ありき」や「パフォーマンス優先」が加速していく。
都知事選でのテレビ選挙化の転換点といえば、完全無所属のタレント、青島幸男氏がまさかの当選を果たした1995年の都知事選を挙げる人が多いだろう(青島ショック)。確かに、テレビの知名度だけを武器に選挙戦もほぼやらずに当選した。
だが、青島ショックには「伏線」がある。91年の都知事選に際し、自民党本部は4期目を目指した鈴木俊一氏の続投を認めず、元NHKキャスターの磯村尚徳氏を擁立した。これに反発した自民党都連は鈴木氏出馬を強行する分裂選挙に陥った。
鈴木氏は当時80歳。世代交代への機運は確かにあった。だが、選挙1カ月前の決起集会でのパフォーマンスが流れを一変させた。鈴木氏はステージ上で伸びやかな前屈を披露した。若さのアピールにとどまらず、自治官僚出身で堅物イメージを塗り替える「隠し芸」が大ウケした。
焦った磯村陣営は、エリートの印象を変えようと銭湯でお年寄りの背中を流し、庶民派を演出したが、これが裏目に出た。当時、高校1年生の筆者がテレビで見たとき、今でいう「イタさ」を感じてしまった。
結局、選挙戦は229万票を集めた鈴木氏が、143万票の磯村氏に圧勝した。政界の本流・自民党が2つの陣営に分かれ、パフォーマンス合戦の末に選挙戦の趨勢(すうせい)を決めたことで、都知事選へのテレビの影響力を押し上げてしまった。
さて、念のため、若い世代の読者のために補足すると、鈴木氏の続投を蹴った自民党本部の重鎮とは誰か? その2年前、歴代最年少の47歳で幹事長に就任していた小沢一郎氏だ。「昭和の選挙」を象徴する角栄氏の系譜を継ぐプリンスが、良くも悪くも都知事選を変貌させるきっかけをつくったのは歴史の皮肉であろうか。
■新田哲史(にった・てつじ) 報道アナリスト。株式会社ソーシャルラボ代表取締役。1975年、横浜市生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞記者、ニュースサイト「SAKISIRU」編集長などを経て、現在は企業や政治関係者の情報戦対応を助言している。著書に『蓮舫vs小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。
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