介護現場とテクノロジー 介護ロボット導入が上手くいく分水嶺とは 「生産性の向上はすなわち、ケアの質の向上である」という考え方 松山市・サンシティ北条
zakzak by夕刊フジ / 2024年7月24日 15時30分
高齢化が進む中、介護現場の人材不足は加速する一方だ。厚生労働省が今月12日に発表した最新の推計によると、2040年度には約272万人の介護職員が必要となる。しかし、直近の実績は22年度の約215万人。約57万人もの不足が見込まれることもあり、テクノロジー導入が喫緊の課題とされる。だが、導入の成否は介護施設によっても差が大きい。その分かれ道はどこにあるのか。
四国の松山市にある社会福祉法人白寿会が運営するサンシティ北条は、ショートステイ、介護付き有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者住宅、そして特別養護老人ホームが1棟に入っている高齢者総合福祉施設だ。
同施設では、特別養護老人ホームエリアが開設された4年前からマット型の見守り支援介護ロボットを導入。心拍、呼吸、体動、離着床、睡眠の状態などを離れた場所から見守ることができる体制を整えている。さらに今年春にはベッドに敷くことで尿や便の排泄が分かり、排泄履歴もわかる介護ロボット(排泄センサー)を、全国に先駆けて全60床に導入した。
なぜ、サンシティ北条では介護ロボット導入がうまくいったのだろうか。社会福祉法人白寿会理事の芳野洋心さんはこう振り返る。
「最初からうまくいったわけではなく、むしろたくさんの失敗を重ねてきました。試行錯誤を重ねる中で、行きついた答えは『生産性の向上はすなわち、ケアの質の向上である』という考え方です。逆に言うと、ケアの質の向上を目指さないようなら、生産性は向上されないと確信しています」
介護ロボットに代表される介護テクノロジーの数々は職員が使いこなし、サービスの質を上げるためのツールというのが芳野さんの持論だ。
「そもそも、何らかのテクノロジー機器を導入しても、導入しただけですべてが良くなるというのは幻想にすぎません」例えば、見守りセンサーや排泄センサーを使うと、「機械が人の代わりに離床や排泄に気づき、知らせてくれるのでスムーズに対応ができる」と誰しもが思う。だが、新しいものを導入すれば、現場のオペレーションが変化し、一時的に生産性が下がることもしばしばある。そこで意欲を持って改善に望めるか、あきらめるのか。その分水嶺となるが「ケアの質の向上」だという。
仮に、ケアの質の向上を目指さずに、目先の便利さだけを追求しようとしても早晩、限界に直面するという。もっともスタッフへの伝え方は工夫する。
「わかりやすいゴールを示すと共に、段階を踏んだマイルストーンと到達点もしっかり示します。雲をつかむような夢物語ではなく、具体性のあるステップを示すからこそ、職員にとってもリアリティーがある課題になりうる。そして、トライアンドエラーを重ねた先に、施設の文化を育てていけると考えています」
テクノロジーの導入は利便性の追求にとどまらない。そこには介護の理念をますますブラッシュアップしていこうという気概と実践がある。この観点を知ることは、いずれ自分や家族が施設を選ぶときにも大いに参考になりそうだ。 (取材・島影真奈美) =あすにつづく
■島影真奈美(しまかげ・まなみ) ライター/老年学研究者。1973年宮城県生まれ。シニアカルチャー、ビジネス、マネーなどの分野を中心に取材・執筆を行う傍ら、桜美林大学大学院老年学研究科に在籍。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)、『親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと』(WAVE出版)。
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