東日本大震災から13年半 忘れない、立ち止まらない 臨済宗・慈恩寺の古山先住に託された「漂流ポスト」 大切な誰か亡くした人の〝あてどころない手紙〟受け取る役目をバトンタッチ
zakzak by夕刊フジ / 2024年9月12日 15時30分
東日本大震災が発生して3年後の2014年から、大切な誰かを亡くした人による〝あてどころのない手紙〟を受け止めてきた、岩手県陸前高田市の私書箱「漂流ポスト」。同市広田町にある旧カフェ施設で同ポストの管理人を務めてきた赤川勇治さんは今年3月、同町にある臨済宗の慈恩寺の古山敬光先代住職(以下、先住)に、この役目を〝バトンタッチ〟した。
「亡き人に語りかけたい言葉を手紙につづることで、悲しみが少しでも癒やされれば」と願い、カフェ「森の小舎(こや)」を営んでいた赤川さんが開設した漂流ポスト。災害などで家族や友人を失った人々から毎週のように手紙が届き、その数は10年間で1000通以上に上る。
手紙をつづり、小舎を訪れる人々の悲嘆に接してきた赤川さん。愛する人を失った人たちの「生きているうちにああすれば良かった、こうすれば良かった」という後悔に触れ続けるなか、ふと自らを振り返った。
「ひと様に寄り添うことばかり考えて、自分は家族をほったらかしにしているじゃないか」
98歳を過ぎた母親が生きているうちに、きちんと向き合っておかなければ、いつか自分も必ず後悔する…。そう考えた赤川さんは、管理人の引退を考えるようになっていた。
とはいえ、「漂流ポストをなくさないで。どうかずっと続けて」という差出人らの切実な願いとの間で板挟みになった。逡巡の末、悩みを打ち明けたのが、毎年手紙の束を「供養」してもらっていた慈恩寺だった。
「亡くなった人だけでなく、生きている方々の手助けをすることが、寺本来の役割」―古山先住は管理の継承を二つ返事で快諾してくれた。
漂流ポストのシンボルとして小舎に置かれていた古い丸形ポストも、併せて同寺に移設された。潮風を感じる境内に、まるで以前からそこにあったような自然さで溶け込んでいる。
移設に関しては、こぼれ話がある。
取材後、ポストが立てられたコンクリート製の土台を指して、同寺の古山先住が「実はこれ、昔の広田郵便局に置かれていた郵便ポストの台座だったんですよ」と教えてくれたのだ。
えっ! と驚いて赤川さんの方を見ると、彼は笑いをこらえきれないような表情でうなずいた。「すごい偶然でしょう?」
聞けば、その台座、郵便局跡地に長年置かれたままだったものを、「あのままにしては気の毒だ」と震災前に先々代の住職が引き取ったものなのだという。
「で、寺には十数年も台座だけがあった。そこにこのポストをお迎えしたんです」と先住。
〝収まるべき所に収まった〟ということ? 思わず口をあんぐりと開けたまま、二人を交互に見た。
「ここでポストが来るのを待っていてくれたんだねえ」
この10年間の肩の荷を下ろしたような赤川さんの声に、何度もうなずいた。頭には〝縁〟の一文字が浮かんでいた。
■鈴木英里(すずき・えり) 1979年、岩手県生まれ。立教大学卒。東京の出版社勤務ののち、2007年、大船渡市・陸前高田市・住田町を販売エリアとする地域紙「東海新報」社に入社。震災時、記者として、被害の甚大だった陸前高田市を担当。現在は、同社社長。
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