1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

実録・人間劇場 アジア回遊編~インド・ネパール(20) 旅に飽きた者が堕落する街・カトマンズ ゲストハウス前でシンナーを吸う子供たち

zakzak by夕刊フジ / 2024年7月5日 6時30分

シンナーを吸う子供=ネパール・カトマンズ(夕刊フジ)

旅に飽きた旅行者が堕落する街、カトマンズ。飽きたのならさっさと母国に帰ればいいじゃないかと思うかもしれないが、自分の国でダラダラした生活を送っていると罪悪感にさいなまれる。だから、わざわざ外国でダラダラするのだ。それなら、一応、「旅をしている」という大義があるので、自己肯定感も下がらずに済むというわけだ。

日本ではそういう人たちを「外こもり」と呼ぶ時代があったが、ここカトマンズには世界中から外こもりたちが滞留している。カトマンズに集まる長期旅行者の多くはインドからやってくる。バーナーで炙られたように暑いインドとは違い、暑くもなければ寒くもない。そのギャップもあり、時間の許す限り、つい留まってしまうのだ。

2017年、ネパールで2週間を過ごす旅程を組んでいた私は、その半分の1週間をカトマンズでの堕落に費やしてしまった。起きるのはもちろん、昼過ぎで山登りに汗を流すこともない。本番は午後9時を過ぎたあたりからで、私と同じような生活をしている旅行者がモゾモゾとゲストハウスからはい出してくる。

私が宿泊していたゲストハウスの前では、2人の子供が一日中シンナーを吸っていた。顔つきから見るに2人は兄弟で、上の子は小学校高学年、下の子は低学年の頃である。シンナーを吸い続けると各種器官に障害をもたらし、大脳が萎縮する。そして、一度壊れた脳はもう元には戻らない。

私も初めのうちは2人にシンナーを止めるように声をかけていた。しかし、途中からそんなことをしたところで無駄だと思うようになっていた。子供なので判断能力もまだ低い。さらに、その頻度を見る限り、2人はほぼ間違いなく依存症である。そんな状態にある子供にネパール語のひとつも話せない通りすがりの旅行者が何かを言ったところで、響くわけがないのだ。

2人はゲストハウスの近くにある目抜き通りでいつも物乞いをしていた。私も断っていたものの、シンナーを吸っている姿を目にしてからは、せめてもの思いで小さな額をあげるようになっていた。しかし、そんな私を見たゲストハウスのスタッフから、「もう彼らにお金なんかあげるんじゃない」と注意を受けた。2人の生活をずっと見てきているのだろう。私にこう話す。

「お前がお金をあげれば、彼らはそのお金でまたシンナーを買うだけだ」

正義感から2人を救おうなんてとんだうぬぼれである。私は途端にその場に居づらくなり、翌朝、別の離れたゲストハウスに滞在場所を移動した。

あれから7年たった。2人がシンナーを止めて真っ当な人生を歩んでいるといい…なんてことも言うつもりはない。

■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください