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小林至教授のスポーツ経営学講義 佐々木朗希の〝ドジャース密約説〟を経済的合理性に基づき信じる米国人 移籍金数十億円投げうち「夢を応援」は子供の世界

zakzak by夕刊フジ / 2024年12月5日 6時30分

日本ラスト登板となりそうなCS初戦で日本ハムを8回零封した佐々木=10月12日、エスコンフィールド北海道(夕刊フジ)

本人の夢を応援する―この言葉には美しい響きがある。しかし、プロ野球ビジネスの大前提は各球団が優勝を目指して全力を尽くすことである。エースを放出する代わりに、それに見合った十分な対価を得て補強や環境整備に投資し、中長期的な戦力の底上げを図るなら、ファンからも納得感を得られるだろう。山本由伸投手(26)がその典型例だ。オリックスは昨オフに山本のポスティング移籍に伴い、ドジャースから72億円の移籍金(ポスティングフィー)を受け取った。

しかし、今オフの佐々木朗希投手(23)のケースは異なる。ロッテが得られる対価は最大でも3億円程度。これではメジャーとマイナーを行き来する選手を補強するのが精一杯だ。ロッテファンだけでなく、多くのプロ野球ファンがモヤモヤ感を抱く理由はここにある。

ポスティングは悪法ではある。例えばNPBからMLBへの一方通行の仕組みだ。MLBからNPBへのポスティングの道はない。また、ポスティングルールは1998年に誕生して以来、複数の制度改定を経て現在に至っているが、主導しているのはMLB側である。MLBのオーナー会議、MLBとMLB選手会との間で結ばれる労使協定(CBA)を経て決まった枠組みを、NPBは「呑むか、呑まないか」というのが実情である。

もっとも、現在のポスティング制度は日本の野球界にとって悪い話ではない。選手が市場価値に見合った契約を結ぶには、「25歳以上」「NPB在籍6年以上」という条件をクリアしなければならず、早期の選手流出の抑制機能となっている。MLBにとっても、野球がグローバル競技とは言い難いなかで、世界有数の経済大国・日本での野球人気の維持拡大は極めて重要だ。NPBの衰退は望んでいない。NPBでスターとして名を馳せた選手が、その輝きを保ったままMLBに渡り、日本のファンやスポンサーを惹きつけ続ける―そんなエコシステムを保ちたいのである。

あと2年待てば、佐々木の契約金もロッテが得るポスティングフィーも山本並みかそれ以上になり、すべては丸く収まったはずだ。情緒的なわたしたち日本人は夢を追う、その夢を応援する、という言葉に、そうか、そういうものかという思いになるが、米国人はそうは思わない。大人は経済的合理性に基づいて行動するはずで、そうでないのは子供の世界だと考える米国人は、佐々木もロッテも非合理的な行動を取った今回の件について、特定の球団と密約を結んでいる以外考えられない―ということで、ドジャース密約説を信じている。

ロッテと佐々木の間にサイドレターがあったのか、あるいは「25歳まで待てと言うなら、その間は投げない」といった圧力があったのか―真相は当事者にしか分からない。しかし、NPB所属選手の契約内容はホントに分からない。現在、各球団は統一契約書をNPBに提出しているが、報告義務があるのは年俸のみであり、複数年契約や付帯条件については記載されない。また、年俸の正確性をNPBが確認する手段も存在しない。

一方で、MLBでは選手契約が透明化されている。契約内容はMLB、各球団、選手会、公認代理人など多くの関係者がアクセスできる仕組みとなっており、これがプロスポーツリーグのグローバルスタンダードだ。NPBも紳士協定からガバナンスへ、舵を切る時期が来ているといえる。 (桜美林大教授・小林至)

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