小林至教授のスポーツ経営学講義 5年ぶり米出張で体感「スポーツ賭博」の台頭 スタジアム内バーから世界中の試合でギャンブル 噂通り物価高と経済格差の拡大
zakzak by夕刊フジ / 2024年10月3日 6時30分
5年ぶりに米国出張へ行ってきた。2000年に7年住んだ米国から帰国して以降も、少なくとも隔年で訪れていたが、コロナ禍で訪問が途絶えてしまっていた。今回の出張は19年以降の米国の変化、特にスポーツベッティングの進化を肌で感じる機会となった。
前回の渡米時は、スポーツベッティングが合法化されてからまだ1年余で、合法州は10に限られていた。訪問した中西部の州ではまだ非合法で、テレビCMやネットコンテンツでは頻繁に目にするものの、参加している友人・知人も少なく、現実感には乏しかった。しかし現在では合法州が38に増え、市場規模は年間20兆円に達し、成人人口の90%がアクセス可能な状況となり、米国のスポーツビジネスの中核的存在へと変貌を遂げている。
シカゴでは業界大手のドラフトキングスが、米大リーグ・カブスの本拠地リグレーフィールドの敷地内に、広大なレストラン・バーを開設している。この施設ではカブスの試合はもちろん、世界中のスポーツイベントのライブ映像と賭け情報が提供され、顧客はその場で賭け券の購入と払い戻しを行うことも可能だ。
ニューヨークでは、ヤンキースをはじめ主要プロチームが大手ブックメーカーとパートナーシップを結び、それぞれの本拠地スタジアム・アリーナにはスポンサーの大きなプレゼンスが見られた。特にメッツのオーナー、スティーブ・コーエンは本拠地球場隣にカジノを誘致しようとロビー活動を展開している。
一方、スポーツベッティングの普及には負の側面も見え隠れする。ギャンブル依存症や不正行為といった問題が顕著になりつつあり、訪問中に会った旧友からはギャンブルによる若者の破産や深刻な借金問題の実態を耳にした。州政府やスポーツ団体、そして主要メディアもこの分野で恩恵を受けているため、問題の深刻さが報じられることは少ないが、実情は深刻であると感じた。
球場のセキュリティーは一層厳しくなっている。入場者全員が金属探知機を通過するのは以前からだが、武装警官がゲートはもちろん場内各所に配置されている。この光景はショッピングモールなどの大規模商業施設でも同様で、安心感はあるが、暴力の恐怖が従来よりもさらに日常に近付いているということでもある。
球場の演出やグッズ・飲食に関しては日本の方が充実している。04年の球界再編以降、日本では米国の球場運営をモデルにして各球団が努力を重ね、カイゼンを繰り返して本家を追い越す高みにまで洗練した。自動車産業をはじめ日本のお家芸である。
物価の高さは噂通りだった。大衆レストランでのランチでも5000円以下に収めるのは困難であり、宿泊費も中小都市で2万円以上が当たり前、ニューヨークともなればその倍では済まない。デフレと円安の日本に対し、米国は経済成長とインフレの国である。そのギャップを痛感した。ニューヨークでは公務員である刑務官の求人広告が地下鉄にでかでかと掲示されていて、そこには初任給が5万5000ドル(約780万円)、5年後には10万ドル(約1420円)、22年間勤務すれば余生に十分な年金が保証される旨が記されていた。5年ぶりの米国出張で一段と強く感じた経済格差の拡大。わが国の今度こそのデフレ脱却・経済復興を願う次第だ。 (桜美林大教授・小林至)
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