大鶴義丹 やっぱりOUTだぜ!! 湾岸タワマンは東京砂漠の蜃気楼か 30階の夜景こそ素晴らしいが…2億円の値段と広さの価値バランスがズレている気がする
zakzak by夕刊フジ / 2024年7月9日 15時30分
私は東京の杉並生まれの杉並育ち、そして今も杉並に住んでいる。
その地元愛の理由は、都会感とノンビリ感の微妙なバランスだ。
あくまで私見だが、杉並の西の武蔵野市では牧歌的過ぎて、逆に東の都心に近づくと忙し過ぎる。また杉並は、安くて美味い飲み屋がたくさんあり、まさに〝呑み助〟天国。
昨今の東京は、エリアによって治安の肌感覚が昔とは変わった。道をはさんで、ガラの悪い人がいきなり増えるような場所もある。
遠い国の景色のようで、日本が元気だった時代も知っているゆえに複雑な気持ちになる。しかし杉並には治安の良さがまだ根付いている。
また杉並は不動産コスパも良いはずだ。
私は長いこと「そう」思っていたのだが、否や、気がつくと、近所の新築物件にとんでもない値札がついていた。それも「桁」がひとつ違っていた。
少なくとも、役者風情の不安定な稼ぎで買える領域ではない。主役級の役を何年もやり続けるような恵まれたポジションにいれば話は別だが、そんなポジションは数えるほど。
杉並のお隣の練馬などを見ても、似たような状況になっている。もう大方の俳優は、結婚して23区で子育てなどは夢見てはいけないのが現実だ。
俳優というのは、夢だけが頼りの人生だが、その淡い夢もはじけてしまったようだ。
不動産でひともうけした同級生と飲んだとき、彼は一部メディアに憤慨していた。
昨今、東京の不動産をバブルと表現するメディアが多い、過去の不動産バブルと今のバブルはまったく性質が異なる、と。
彼に言わせると、平成の不動産バブルは虚像に対する値段が金融引き締めで崩壊したが、昨今の東京不動産バブルは始まりと構造が違う。メディアはそこを丁寧に説明せずに、幼稚な受け狙いで「バブル」というキーワードを使い過ぎだというのだ。
現役の不動産関係者としては、今の都心部はそれだけの不動産価値が実際にあると断言する。
日本の市井レベルでの経済が成長していないだけで、成長を続けている海外ニーズからすると、都心部の高級不動産は実力と魅力が十分に伴っていると。
そして厄介なのは、実力がないのに便乗値上げをしている都内不動産が多い。それを区別しないで不動産バブルと呼ぶのは違和感があると。
確かにわが家近くの新築一戸建ての値段も納得できない。わが町は良い所だが、付けられた値段はやり過ぎか。
一方、実際に私が知っている湾岸エリアの2億円近いタワーマンションは、30階の夜景こそ素晴らしいが、値段と広さの価値バランスがズレている気がした。広さだけを見れば、23区から離れた場所なら何分の1以下の値段帯かもしれない。
冷静に考えると、2億円近い金を出すということは普通ではない。才にあふれた特別な人生にのみ許される幸せだ。だが、あの広さがその特別な幸せを包むという現実に、どうしても違和感が残った。
その手の妬み話に意味がないのは分かっている。実際にその値段で動いているのだ。バブルであろうとなかろうと、それも東京砂漠の蜃気楼。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。
19~21日には東京・浅草公会堂で上演の松井誠PRODUCE公演「月夜の一文銭」に出演。
8月29日~9月2日には、東京・三越劇場で上演の「リア王2024」に出演する。
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