実録・人間劇場 アジア回遊編~インド・ネパール(25)2段ベッドの下に寝る50代の日本人バックパッカー 激減の〝オールドスタイル〟に出会う
zakzak by夕刊フジ / 2024年8月9日 11時0分
週刊誌の記者を辞め再びインドへ
2019年の夏、学生時代に旅をしていたインドを再び訪れた。大学に7年間も通った揚げ句に就職もせず、卒業後は大阪の西成区あいりん地区でフラフラしていた私は、しばらくして週刊誌記者になった。しかし、その仕事もわずか半年間で辞表を出し、再び無職になってしまった。そして、成田空港からバンコクを経由し、ニューデリーに降り立ったのだ。
バンコク経由のインドという航路は、昔から意識の低い旅行者たちの黄金ルートとして知られている。1980年代、バンコクのチャイナタウンは麻薬と売春に溺れた怠惰な日本人たちの吹きだまりになっていた。彼らのスタイルは、日本で3カ月かけて稼いだバイト代を持って、物価の安い海外で1年間を過ごすというものだった。
しかし、タイにもビザの期限がある。ビザ代を払って滞在期間を延長するくらいなら、一度ほかの国に出国し、またバンコクに戻ってきた方が気分的にはお得だ。この〝ビザラン〟には隣国のカンボジアあたりが手頃だったが、気分転換にインドへ行く旅行者も多かったのだ。当時から、インドでは麻薬が安価で手に入ったという理由も大きいだろう。
しかし、時代は変わった。インターネットの発達で旅のスタイルは合理化の方向に進んだ。若者たちは将来を危惧し、堅実な人生を歩むようになった。30年前にバックパッカーだった若者も、今では50代に差し掛かっている。ゆえに「日本を逃げ出す」という意味合いでのバックパッカーは著しく減り、オールドスタイルの日本人旅行者は化石のような存在になったのだ。
インドの首都デリーにあるインディラ・ガンディー国際空港からタクシーに乗ること約30分。格安のゲストハウスと旅行者が集まる「パハールガンジ」というエリアに到着した。タクシーを降りると、日本のようなジメっとした嫌な暑さはないものの、焼けるような暑さが肌を襲った。喧噪の昼下がり。気温はゆうに40度を超えている。
宿を予約していなかったので、重いバックパックを背負いながら大通りのメインバザーから外れた裏道を歩いていると、大きな犬がエントランスでくつろいでいるゲストハウスを見つけた。聞くと相部屋の宿泊料は1泊1000円にも満たないという。6人部屋の2段ベッドの上段に荷物をほうり投げると、下段で寝転がっていた50代の日本人男性が目を覚ました。
部屋には他にインド人の兄弟とバングラデシュ人が2人。つまりはこの50代の男はおそらく1人で旅をしていることになる。
「冬は日本のスキー場でバイトして、春から秋はずっと海外にいるんだ」
男はそう言った。絵に描いたようなオールドスタイルの旅人じゃないか。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。
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