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渡邉寧久の得するエンタメ見聞録 「人が忽然と消える」噂される物件、物語に厚みを出す数々の仕掛けと回収に仰天! 映画「あの人が消えた」

zakzak by夕刊フジ / 2024年9月17日 6時30分

冒頭はホラー仕立て。誰が、何のために立てているのか分からない音が、観客の聴覚から体内に恐怖を滑り込ませていく20日公開の映画「あの人が消えた」(水野格監督)。

舞台は小高い丘を切り開いて建てた、少し古びたマンション。人が忽然と消える、と噂される物件だ。ゴミ捨て場や郵便受けにセキュリティーは施されていない。他者の接近を容易に許す、ほぼむき出しの生活環境が恐怖の予感を運んでくる。

物語を牽引(けんいん)するのは荷物の配達員・丸子(高橋文哉)。住人同士は廊下ですれ違う程度が多少の交流で、深い付き合いは一切ない。ところが配達員は違う。そのマンションを2週間前から担当することになった丸子は荷物の受け渡しを通して、住人の素性を、表面的な部分に過ぎないが、知り得ることになる。

コロナを理由に飲食店のアルバイトをお払い箱になった丸子は大学の授業料を工面するために、テレビニュースが取り上げるエッセンシャルワーカーである配達員に転職する(映画の中で学生生活は一切出てこないが)。唯一の楽しみは小説投稿サイトで読む、転生を描いた物語。毎日の更新が丸子の生きがいになっていく。配達先の部屋に偶然、その作者と思われる女性が住んでいることに気づく。ところがある日、女性の日々の更新が途絶え、丸子は自力で捜索に乗り出すことに。

物語はやがてミステリー仕立てになり、そこにエンタメがまぶされ、謎解きが加わり、しまいにはラブストーリーっぽいほろっとした人情噺も加わり、という具合にテイストが次々に変化する。マンションの住人には、癖のある俳優陣がキャスティングされ、裏を感じさせる演技で魅せる。

人は、自分が見たものを、自分の脳で判断する。目撃したものに噓はないと判断するのが通常で、なかなか主観を排除できない。他者を見た目で判断しがちだし、属性で見極めがちだ。

映画は、見た目と実態、その計算された乖離(かいり)を巧みに利用し、幾重にもわなを張り巡らす。仕掛けの構造は、やがてこれでもか! という全面回収で時間を巻き戻し、細部を再構築する。そしておしまいにも、もうひと驚き。素直に楽しみたいエンタメ作だ。 (演芸評論家・エンタメライター)

■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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