大鶴義丹 やっぱりOUTだぜ!! 「闇バイト強盗」演じるなら…長い刑期も「日給10万円」選ぶワケ 死刑の恐怖さえ踏み越える原動力、社会から乖離した〝麻痺〟
zakzak by夕刊フジ / 2024年10月8日 11時0分
東京都内や埼玉県で相次ぐ強盗事件で、逮捕された男たちは「闇バイトに応募した」と供述している。SNSなどで高額バイトをエサに集められる「匿名・流動型犯罪グループ」、つまり「トクリュウ」の典型的な手法といえる。
これらの犯行において、ラスボス的な指示役が共通して存在しているという。無計画な犯行手順で、逮捕された実行役は犯行を強行しないと、殺すと脅されたともいう。まさに捨て駒だ。
狙われた対象は、郊外にある大きな一戸建てに住む高齢者夫婦という。東京近郊のベッドタウンにはありふれた光景の一つだ。
私は過去に、神奈川県の同様のエリアに、大型犬を飼うために借家暮らしをした経験がある。なので、その手の郊外のベッドタウンの「隔絶感」というのは体感として知っている。
実際に私の住んでいた家の裏は、夏には「肝試し」ができるような雑木林であった。
コンビニまでは車で5分以上はかかり、夜10時を過ぎれば人通りもほとんどなくなる。近隣との距離感覚もあって、自宅での宴会も気を使うことはなかった。
しかし、それは逆の意味で言うと、自宅で何かのトラブルがあっても、近隣が不審な物音に気がつかないということだ。
また近所に住んでいた方々は、子育てが終わった高齢夫婦も多かった。金満ではないものの、決してお金に困っているような雰囲気ではない。「捕食者」からすると格好の餌食なのだろう。
この手の犯罪事件を知ると、仕事柄なのか、その犯人を演じるのならば、どんな芝居をするべきなのかと考えてしまう。
闇バイトに応募して、愚かな結末を迎える50代半ばの男を演じるのならば、どんな心理状況を想定すべきか。
まず大前提として、法に触れることなく、「日給10万円」という稼ぎを得ることが不可能なのは、彼らも理解しているはずだ。
この手の闇バイト強盗が重罪であり、長い刑期が待っているのは重々承知での参加だろう。スマホで「強盗・刑期」「強盗致死・死刑」などと検索もしているはず。
だが、それでも「日給10万円」を選んでしまう心とはどんなものなのだろう。
そんな愚かな中年を、役者として演じるのならば、場合によっては死刑という恐怖を踏み越えていく、強大な「原動力」を表現する必要がある。それが形作られる過程を、丁寧に表現することが重要課題だと思う。
私、個人の身勝手な想像ではあるが、その「原動力」には、日々突きつけられ続ける格差に対する妬みや恨みは基本だが、その日々が作り出した「麻痺」が大きいと思う。
孤独で不幸な時間が果てしなく続くことにより、この現実社会を生きている感覚や、自分以外の存在が絵空事になっているはずだ。社会から乖離した「麻痺」を演じると思う。
生まれ持っての凶悪犯ではない、ただの愚かな中年男が凶行に向かう心を演じるには、表面的な妬み恨みだけでは足りないと思う。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。
14~23日に、東京・赤坂サカス広場特設紫テントで上演される新宿梁山泊の「ジャガーの眼」の舞台に立つ。
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