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BOOK デビュー作で芥川賞受賞・石沢麻依さん 初エッセー、ドイツと仙台で時空を超える「登場人物のふりした〝私〟を小さく紛れ込ませています」

zakzak by夕刊フジ / 2025年1月25日 15時0分

──美術についてのエッセーも面白い。日経新聞の連載「美の十選」を収録。「透明なものたち」と題し、画家クラーナハやワイエスらの作品を解説・鑑賞している

「本来は見えないとされるものをどう描くか、という点に興味があります。そこには画家独自の表現だけではなく、伝統や時代背景も関わってきます。透明は、私のテーマの一つである〝不在〟とも関わってきます。あるけどない、ないけどある、そうした境界にあるものを色彩や形ではなく、言葉というより曖昧さを含むものならばどのように表せるか、絵を通して考えていました」

──お気に入りの一篇は

「どれも全てを注ぐつもりで書いたので…難しいですね(笑)。肩の力を抜いて書いていいんですよ、と編集の方に言われるのですが、いつも掌編を書く感覚でエッセーに取り組んでいます。だから、自分のことなのに距離を置いているような印象があるかもしれません。絵でたとえるなら〝私〟を示すサインが画面に入っていないのが小説です。それに対し、登場人物のふりをした〝私〟を小さく紛れ込ませているのがエッセー、という感じでしょうか。ですからこの本を、フィクションのように読んでいただいてもまったく問題ないですし、それはそれでうれしいです」

(取材・砂田明子)

『かりそめの星巡り』講談社・2200円(税込み)

ドイツ・イェーナで目にした人形の家から、かつての「東(ドイツ)」に思いを馳せ、ハンブルクで「冬の海」を見て、あの日の東北の海を思う。仙台の金木犀(きんもくせい)の香りや、風邪のときに食べたお粥の味を思い出すと同時に、現在暮らすドイツ社会の中で語られる歴史に耳を傾ける。記憶と現在を自在に往還しながら、みずみずしい五感と深い思索で紡がれるエッセー集。「河北新報」連載「記憶の素描」、「日本経済新聞」連載「美の十選」のほか、愛する文学にちなんだエッセーを収録。

石沢麻依(いしざわ・まい) 1980年宮城県生まれ。44歳。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。ドイツのハイデルベルク大学大学院の博士課程でルネサンス美術を専攻。現在ドイツ在住。2021年「貝に続く場所にて」で第64回群像新人文学賞を受賞して作家デビュー。同作で第165回芥川賞を受賞。他の著書に『月の三相』がある。

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