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渡邉寧久の得するエンタメ見聞録 「一之輔落語」の理解を深める「落語の人、春風亭一之輔」大いに役立つ一冊「『笑点』での一之輔は…世を忍ぶ仮の姿だ」

zakzak by夕刊フジ / 2024年9月9日 6時30分

発売半月あまりで早くも増刷が決まったという。

「落語の人、春風亭一之輔」(集英社新書ノンフィクション)。今週、落語協会の新真打ち4人(柳家花ごめ、古今亭志ん橋、春風亭梅朝、古今亭伝輔)の記者会見の司会を務めた一之輔に、「(本の)内容はどうでした?」と直球で尋ねたら「あんなもんですよ」とさらり。「(筆者は)七転八倒していましたけどね。私には関係ないですけど」と一之輔節をさく裂させた。

筆者は、スポーツ紙出身のノンフィクションライターの中村計氏。同氏の七転八倒の痕跡は、冒頭の「はじめに~長い言い訳~」に表現されている。約30ページ! 長っ!

一之輔に近づけなかったとか、肩透かしにあったとか、一之輔の好物をお土産に用意したとか、いわゆる楽屋噺が、「いつ終わるの?」というくらい続く。

落語の場合、本編に入る前の導入部をマクラと呼ぶが、マクラが長い噺家が時折いる。例え長くても面白い場合もあるが、マクラは無駄を省いて、洗練されていたほうがいい。

さて本編だ。筆者は全体を「ふてぶてしい人」「壊す人」「寄席の人」「泣かせない人」と章立てし、一之輔の肉声を中心に、師匠の春風亭一朝、テレビ番組「笑点」のメンバーでもある桂宮治、漫才師ロケット団の三浦昌朗、大学時代の落研(落語研究会)の後輩である落語家・柳家わさび、弟子の春風亭㐂いちや与いちらの証言を絡め、組み立てている。

興味深い言葉が並ぶ。芸談もあり、他団体に対する認識もあり(おお、言っちゃってる!)、一之輔の落語観もたっぷり。「笑点」に対するひと昔前の落語ファンの誤認識を刷り込んだままと思える表記、「志の輔落語」ではなく「志の輔らくご」だろう! と突っ込みながらの読み進めは私の楽しいエンタメ時間になったし、一之輔落語の理解を深めるために大いに役立つ。落語の本は大抵読み捨てるが、この一冊はわが家の蔵書にした。

しまい近く、筆者は「念のために書いておくが『笑点』の一之輔は本当の一之輔ではない。断固として、ない。あれは世を忍ぶ仮の姿である。高座の一之輔。それこそが真の姿だ。」と言葉を強める。「笑点」の一之輔も「高座」の一之輔も全部一之輔。それが一之輔の多面性なのである。 (演芸評論家・エンタメライター)

渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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