大鶴義丹 やっぱりOUTだぜ!! 大衆演劇に生きる俳優たちの「強さと独立性」 役者という職業に感じていた〝疑問〟に一矢 ここ10年で一番刺激を受けた時間
zakzak by夕刊フジ / 2024年7月30日 6時30分
大衆演劇のカリスマである、松井誠氏がプロデュースした公演に参加した。歌舞伎の演目でも有名な「上州土産百両首」をベースにした芝居と、松井誠氏の真骨頂でもある、ラジカルな日本舞踊や集団舞踏ショーにも初挑戦した。
大衆演劇というのは、一般的な演劇公演とは大きく異なり、人情劇や剣劇、役者が歌ったり踊ったりする舞踊ショー、歌謡ショーなどのマルチ構成だ。単に演劇を行うものではない。
私がその大衆演劇に初参加したのは、安っぽい気まぐれではない。
下町育ちである父から、アングラ演劇のベースには、子供の頃から親しんでいた大衆演劇や浅草軽演劇があるという話を何度も聞かされていたからだ。
その源流を知るには、今の年齢を逃したらもうないと決断した。
実際に参加して、感じ、学んだことは大きかった。技術体系は当然ながら、それ以上に、役者という職業に対してずっと感じ続けていた「疑問」に一矢報いるものがあった。
16歳から役者という世界に飛び込み40年。
役者という仕事だけで人生の大半を過ごしてしまったが、どれだけ芝居を繰り返しても、役者というのは「不完全」な職業能力だと思っている。
役者は、テレビ、映画館、劇場がなくては何の意味もない存在に成り下がる。どんなに人気ドラマや大作映画、大きな舞台に立とうとも、その作品が終わった瞬間に、血道を上げた長い時間が霧散する。
逃れるように、次から次へと仕事を求める者もいるが、それがかなわない場合も多いはずだ。多くの俳優たちは心を潰される。
だが大衆演劇に生きる俳優たちは違っていた。松井氏や彼の劇団を支える方たちは、それぞれが優秀な俳優としてだけでなく、歌や踊りなどの「名手」でもあり、和装のプロでもある。
メーク道具と衣装だけあれば、どこでも「劇空間」を作りあげてしまう。言葉が通じない海外であろうとも、派手な日舞を舞えば拍手喝采だろう。男が女形として艶やかに女性役を演じることも当たり前だ。
私がずっと「疑問」に感じていた俳優という存在の弱さに対して、とても強い独立性を持っている。
俳優の人生は、才能のあるなしに関わらず、神様に選ばれたかのように良い場所に居続けることもある。そういう恵まれた友人も近くにいる。
だが、それはほんの一握りで、ほとんどの俳優たちは、才能があるというのに、最後まで自分の居場所に迷うことが多い。理由は、俳優は1人では何もできないからだ。
身体が資本であるにもかかわらず「身ひとつ」では何もできない。真っ当に生きていくには、それを許しておくべきではない。
大衆演劇に生きる俳優たちに見る「強さと独立性」というのは、ここ10年で一番刺激を受けた時間だった。
多くの俳優たちに欠けているものが、そこには当たり前のようにあった。これを自分の人生に取り入れない手はないだろう。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。
8月29日~9月2日に東京・三越劇場で上演の「リア王2024」、10月14~23日に東京・赤坂サカス広場特設紫テントで上演の新宿梁山泊「ジャガーの眼」に出演。
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