岩田明子 さくらリポート トランプ氏との早期面会断念、石破外交に求められる〝現実路線〟日本へ要求を強める恐れ 安倍氏らが残した「資産」活かせ
zakzak by夕刊フジ / 2024年11月20日 6時30分
石破茂首相が、南米訪問に合わせて目指していたドナルド・トランプ次期米大統領との面会が見送られた。トランプ氏側が、来年1月の就任前は、外国要人とは原則面会しない方針を伝えたようだ。トランプ氏は個人的関係を重視する外交を進めるため、日本にとっては痛手だ。
安倍晋三元首相は、第1次トランプ政権(2017年~21年)誕生前の16年11月、いち早くトランプ氏との会談にこぎつけ、その後の蜜月関係につなげた。安倍氏が信頼を勝ち得た決め手は、トランプ氏が興味を示していた北朝鮮について有益なアドバイスを送ったことにある。
トランプ氏は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記について、「天才なのか、それとも狂っているのか」と聞いた。安倍氏は官房副長官として同行した日朝首脳会談(02年9月)の経験や、その際に対面した正恩氏の父、正日(ジョンイル)総書記の特徴、なぜ各国の北朝鮮外交が失敗してきたかなどを詳細に説明した。
その結果、トランプ氏は「これからは、北朝鮮や中国についてもいろいろ相談したい」と、安倍氏を頼りにするようになった。18年の米朝首脳会談前には、交渉のテーブルに乗せる内容から開催地についてまで相談があり、会談終了直後には、トランプ氏が大統領専用機「エアフォースワン」から結果を安倍氏に電話するまでの関係を築いた。
こうした経験から考えても、石破首相が早期にトランプ氏と会う意味は大きく、重要性は増していた。トランプ氏は政治経験のなかった第1次政権に比べ、第2次政権では側近をイエスマンで固めている。より独自色を打ち出して日本への要求を強める恐れがあるからだ。
安倍氏は、安全保障ではトランプ政権と緊密に連携したが、通商交渉では熾烈(しれつ)な交渉を繰り広げ、戦略的に米国を押さえ込むことに成功した。
安倍氏が20年8月に退陣を表明した際、トランプ氏は電話会談で「貿易交渉では正直負けたと思った。でも、それはシンゾーが相手だったからだ」と吐露していた。
タフさを増したトランプ氏は第2次政権で、日本に何を要求してくるのか。
対米貿易黒字の解消は、当然強く求めてくるだろう。20年に発効した日米貿易協定についても、米国産品の輸出拡大を目指して再交渉を求めてくる可能性がある。安全保障面でも、防衛負担拡大を求めてくることが予想される。
石破首相に求められるのは「独自外交」ではなく、過去の経験を生かした「現実的な外交」だ。今回の日米韓首脳会談では、3カ国の連携の重要性、日中首脳会談では「戦略的互恵関係」の包括的な推進を確認するなど、過去の政権が進めてきた外交を踏襲するかたちとなった。
日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、日米同盟の重要性も大きくなっている。トランプ氏との会談は実現しなかったが、安倍氏らが残した「外交資産」を最大限活用して、安定的な日米関係の継続につなげてほしい。石破首相に課された責任は重さを増している。
■岩田明子(いわた・あきこ) ジャーナリスト・千葉大学客員教授、中京大学客員教授。千葉県出身。東大法学部を卒業後、1996年にNHKに入局。岡山放送局で事件担当。2000年から報道局政治部記者を経て解説主幹。永田町や霞が関、国際会議、首脳会談を20年以上取材。22年7月にNHKを早期退職し、テレビやラジオでニュース解説などを担当する。月刊誌などへの寄稿も多い。著書に『安倍晋三実録』(文芸春秋)。
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