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勝負師たちの系譜 伊藤匠叡王 藤井聡太が最も得意とする「必勝パターン」見れず…追い詰めた終盤力 針の穴を通すような正確な寄せ

zakzak by夕刊フジ / 2024年6月29日 15時0分

終盤での強さを発揮した伊藤叡王(夕刊フジ)

伊藤匠七段が藤井聡太叡王に挑戦していた叡王戦五番勝負第5局が20日、甲府市の湯村温泉『常磐ホテル』で行われ、伊藤が勝って初タイトルの「叡王」を奪取した。

常磐ホテルは過去、将棋や囲碁のタイトル戦が多く戦われたホテルだが、番勝負の最終局でも快く引き受けてくれる、貴重な対局場でもある。

特にタイトル保持者が藤井になってからは、ほとんど最終局まで行かないから、今回は大当たりを引いたことになる。

叡王戦が始まるまでの2人の対戦成績は、1持将棋を入れて、藤井の10勝0敗。伊藤は過去2回のタイトル戦では、1勝もできずに敗れている。

しかし私は常々、一度追い抜かれた強豪より、若手の方が王者を打破する可能性は高い、と力説してきた。

昭和40年代に、無敵の大山康晴十五世名人を名人戦で破ったのは「若き太陽」と言われた中原誠十六世名人だった。平成の絶対王者の羽生善治七冠(当時)を最初に破ったのも、若手有望棋士という認識しかなかった、三浦弘行五段(当時)である。

今回伊藤が一番印象に残る一局は、初めて藤井に勝った第2局ではないだろうか。

変則的な角交換の形から藤井陣をうまく咎(とが)め、最後しっかり詰ませたときは、今まで感じていた苦手意識が、一度に吹き飛んだに違いない。

圧巻は第3局だった。終盤では藤井の優勢と見られていた将棋だが、受けを間違えてからは逆転模様。

その後も針の穴を通すような正確な寄せで勝ち切り、藤井を初めてカド番に追い詰めたのである。

第4局は良い所なく敗れたものの、最終第5局では、やはり少し悪そうな終盤戦でも崩れず、悪い方が逆に藤井を追い詰めている感があった。

このシリーズを見て感じたのは、藤井の最も得意とする、形勢の針が一旦60を超えると逆転することなく、きれいな放物線を描いて100に達する(勝つ)という必勝パターンが見られなかったこと。それだけ伊藤の終盤力が、藤井をも追い詰めるほどだったのだ。

最後、藤井が詰まないと知りつつ、いつまでも王手を続けたのが印象的だった。タイトルを明け渡す心の準備をしていたのだろう。

伊藤の勝利で、若手や今まで勝てなかった先輩棋士が自分もと沸き立つのか、全盛期の大山のように、藤井が一時的にタイトルを渡しただけですよとなるのか、面白い時代になってきた。

■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。

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