チームの“顔”にFA移籍の勧め「王が欲しがっとる、行け」 伯父から指令も初めて反論
Full-Count / 2024年6月3日 7時10分
■金石昭人氏は1993年開幕前に骨折…シーズン途中にクローザーへ配転
怪我の功名だった。プロ3球団20年で通算72勝80セーブをマークした野球解説者の金石昭人氏は、日本ハム時代の1993年開幕前に右足を骨折した。復帰後は守護神を担った。「1度は『僕は抑えに向いてませんよ』と断っていました」。広島から移籍1年目の前年は13完投の数字が示すように先発の軸だった197センチの長身右腕は、いかにして転身したのか。
1993年の春季キャンプ。金石氏は異変を自覚した。「何か去年と違うな……。肩が浮いてる。力んでも全然自分のボールがいかない」。チーム最多14勝を挙げた1992年オフに体のケアを怠ったことが要因で、「ごまかしながらやっていました」。
悪いことは重なる。福岡ドーム(現みずほPayPayドーム)のこけら落としとなる「竣工記念パ・リーグトーナメント」が4月2日から3日間開催された。そのダイエー(現ソフトバンク)戦に登板し、吉永幸一郎捕手の打球が右足に当たるアクシデントで開幕アウトとなった。
6月に復帰したが、プロの世界は厳しい。チームの先発陣は西崎幸広、柴田保光、武田一浩に加えて若手の白井康勝も台頭し、金石氏が入り込む余地がなくなっていた。一方で抑えのルーキー山原和敏が故障で離脱した。
この年からチームは“親分”こと大沢啓二・球団常務が監督に復帰。金石氏が「日本ハムの首領ですからね」と愛する指揮官の命を受けた高橋一三コーチから、クローザーへの配置転換を促された。「いや、僕なんかには抑えはできませんよ。140キロ出るか出ないかのストレートでは三振が取れませんし」。だが“親分”の頼みを拒み切れるはずもない。「文句言えないでしょ、大沢さんには」。新しい役割に挑戦した。
「よくよく考えると、抑えは最後の9回1イニング。先発ピッチャーは5回まで投げるのは当たり前じゃないですか。あえて『1イニングでいいんだ』と軽い気持ちに切り替えました。もっとも、あの頃はストッパーが7回から3イニングも投げたりするような時代でしたけどね」
■1995年に自己最多25セーブ…オフにFA残留で年俸1億円を突破
守護神には最高の教科書が存在した。“投手王国”の広島で過ごした日々。そこには最優秀救援投手のタイトルを獲得した津田恒実、大野豊の姿があった。「ずっとブルペンで見ていましたからね。調整の仕方とか肩の作り方、ゲームの入り方等々。そういうのはカープで勉強していた。見よう見まねでやってみたりして、『あっ、こうすればいいんだ』と自分なりの形ができました」。
試合開始時点ではユニホームを着用せず、ジャージー姿でトレーナーのマッサージを受ける。5回までは展開を気にすることなくリラックスし、出番がありそうならブルペンで徐々にスイッチオン。大差の場合は投げない、気持ちも入れない。「実際に登板したら、あえて太々しく振る舞った。チームへの影響を考えて、打たれても『ワシが打たれたんならしょうがないわ』と開き直って投げるようにしましたね」。
持ち味の制球力、長身からのフォーク。プロで長く飯を食ってきた投球術は、抑えにピタリとはまった。クローザー初年度から9勝13セーブの大活躍。好リードの田村藤夫捕手と最優秀バッテリー賞に輝いた。日本ハムはもちろんのこと「やっぱり、あらゆる基礎はカープ時代にある。カープにも感謝しています」。
金石氏は翌年以降もストッパーとして2桁セーブを積み重ねチームの顔になった。1995年には自己最多の25セーブを記録。オフにはFA残留し、日本ハムでは初めて年俸1億円の大台を突破した。
このオフ。実は400勝投手の伯父・金田正一氏(元ロッテ監督)から高校のPL学園、プロの広島入りに続く“特別推薦”を受けた。FA権を取得した甥っ子に「王(貞治監督)が欲しがっとる。行け」とダイエー入団を勧めたのだ。「今だから言えるけど」と述懐する。
しかし、初めて反論したという。「僕は金田じゃありません。金石です」。自分を貫いた。「日本ハムで、お山の大将でやらせて頂いていた。また一からホークスでやり直すのは、残りの野球人生を考えるとね」。その後「伯父さんは、僕のことを『オウ、金石』としか言わなくなりました」。金石氏は懐かしそうに笑った。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)
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