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新人が“登板拒否”…エースに「お前が投げたら?」 謝罪もそっぽ、飛躍につながった事件

Full-Count / 2024年6月14日 7時10分

西武でプレーした松沼博久氏【写真:片倉尚文】

■松沼博久氏は東洋大から東京ガス入社…1年目の都市対抗で“登板拒否”寸前

 負けん気の強さで飛躍した。「西武ライオンズ」スタートの1979年に弟の雅之氏と一緒にプロ入りし、「兄やん」の愛称で親しまれた野球評論家の松沼博久氏は、アンダースローの先発として新人王に輝くなど西武一筋で112勝をマークした。東洋大で飛躍を遂げた後は、社会人野球の東京ガスに進んだ。「僕の性格って多分おかしいんですよ(笑)」。“上司”相手でも遠慮なく自己主張した。

 松沼氏は1975年に東京ガスに入社。大学時代のオープン戦で交流があり、自然な流れだったという。勤務は伝票整理などを午前中に行い、午後から練習。職場からグラウンド、寮ともに近く環境は申し分なかった。「給料は、あの頃で月に8万5000円。まあまあ良かったと思います。入社2か月までは、こんなにお金があっていいのかな、と感じてました。でも3か月目からは先輩たちに『飲みに行こう』とか色々誘われ始めた。僕も嫌いじゃなかったんで(笑)。あっという間にツケになっちゃいました」。

“本職”の野球も充実の滑り出し。1年目からチームは都市対抗に出場した。エースには豊橋東高(愛知)時代に中日からドラフト指名された経験を持ち、慶大で活躍した工藤真投手が君臨していた。熊谷組から補強の久保田美郎投手、そして松沼氏が控える陣容だった。準々決勝の大丸戦に4-6で敗退も、ルーキーは3番手で大会初登板。9回の1イニングをノーヒット、1奪三振と最高のデビューを果たした。

 ところが、松沼氏の印象は全然違う。「僕は『否、投げなくていいです』と断ったんです。リードされている展開で『何で俺が』と。キャプテンが無理やり背中を押して『いいから行け』と言うので嫌々投げました。だからと言って、自分が凄いピッチャーだと思っている訳ではないんですよ。職場の方々から都市対抗に出るからと盛大に祝って頂いていた。いくら華やかな都市対抗でも負けている状況では……。無失点でも、あんな嫌な思い出は忘れないですよ」。

 松沼氏は2年目以降も結果を残した。「でも、そこそこなんですよ。そこそこ。エースがいる。他の投手もいて、その中の1人。エース扱いはされない」。進化を目指す過程でバッテリーの呼吸を重視していた。「キャッチャーは大事じゃないですか。僕は優しく構えてくれる人が好きで、きっちり『ここだ!』とコースを要求する真面目過ぎるタイプは苦手でしたね」。

■苦手捕手のサインに首振りまくり…エースに謝罪もそっぽ向かれ「負けない」

 とある大会でのこと。松沼氏は対戦チームの電電東京(現NTT東日本)の球場だったと記憶する。いつもとは異なり、年上の苦手な捕手と組むことになった。案の定、サイン交換がかみ合わず首を何度も振りまくった。明らかな異変を誰もが察知した。

 ベンチに戻ると、エースが「お前、ふざけてんのか?」と指摘する。「いえ、ふざけてないです」。再び「ちゃんと投げろ」と怒鳴られるや、持っていたグラブを叩き付けて「じゃあ、お前が投げたらいいじゃないか!」と言い返してしまった。さらには柵を乗り越えて観客席に座り込んだ。見かねた主将に連れ戻され、再びマウンドに上がったものの敗戦。松沼氏は今、若気の至りを反省する。「僕、サラリーマンじゃないですか。相手は上司じゃないですか。歯向かってるんだもんね、まずいですよね」。

 数日後に監督から呼び出され、謝罪を命じられた。エースに「すみませんでした」と頭を下げたが、そっぽを向かれた。「工藤さんが『いいよ、分かったよ』と仰ってくれたら、丸く収まったと思うんですが……。僕も素直じゃないので『ああ、この人にはずっと負けちゃいけないんだな』と思いました」と苦笑する。「結果的に、そこから僕もやる気になったんです」。一念発起した右腕は、自主練習の量を増やした。

 1978年の都市対抗。丸善石油との1回戦で先発した松沼氏の真っ直ぐは浮き上がり、変化球は逆に鋭く曲がり、沈んだ。全て空振りの7連続を含む大会新の17奪三振。現在でも破られていない大記録を樹立した。「17個目の三振を取った時に『記録です』ってアナウンスがあって、後楽園球場のスタンドから大歓声が上がったことを覚えています」。

 それでも松沼氏はちょっぴり残念がる。東芝府中から補強の尾崎清士捕手とは相性抜群。「割と適当な人(笑)。アバウトな構えで僕のストレートを買ってくれて、上手に配球を組み立ててくれました」と振り返る。最後の打者はカーブのサインに肯き、内野ゴロ。なのに「あそこは直球のサインを出してもらえれば、もう1個三振を奪えた気がしますね」。

 ピッチャーという商売は良い意味で、“わがまま”でないと務まらないのだろう。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)

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