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元NHK→独立L監督→西武職員 “異色”の男が進める若手改革…負けてもインタビュー行うわけ

Full-Count / 2024年6月18日 20時28分

西武人財開発兼バイオメカニクス担当・伊藤悠一さん【提供:パ・リーグ インサイト】

■今季から負け試合でもインタビュー実施…反省点を選手に聞く

 お立ち台は本来勝利チームのインタビューの場であるが、西武のファームに限ってはその限りではない。今季から土・日・祝日の主催試合(CAR3219フィールドのみ)で、勝敗に関わらずインタビューを実施しているのだ。通常の勝利インタビュー「若獅子インタビュー」と区別し、「若獅子リフレクション」と呼ばれるその時間は、あえて選手に課題を聞き、リフレクション=内省・反省を語ってもらうという斬新な試みだ。

 人は自分の良かったパフォーマンスについてはスラスラと言葉が出てくるが、うまくいかなかった時に何が原因だったか、それをどう改善するかを、反射的に答えることは難しい。若獅子リフレクションは、敗戦直後にマイクを向けることで選手の本音、悩み、決意などが聞ける。選手の頭の中を覗くような“生っぽさ”がある。

 これらの仕掛け人は西武の人財開発担当だ。球界では聞き慣れないが、西武の「人財開発」とは、主にファームの若手選手のマインドセットや思考の面から育成を支えること。具体的には「主体的に行動できる選手の育成」と「言語化能力の高い選手の育成」だという。グラウンドでの姿勢や取り組みも含め、技術以外の部分を1軍で通用するために、考え方などを形成していく役割を担う。

 青木智史育成コーチ、荒川雄太三軍バッテリーコーチ、上原厚治郎さん(兼任チーム広報・打撃投手)、木村文紀さんと、元選手が多いこの部署で奮闘しているのが、昨年11月から人財開発担当となった伊藤悠一さんだ。

 伊藤さんは、ユニークな経歴の持ち主。新卒でNHKに入局しドキュメンタリー番組のディレクターを10年以上務めたのち、公募型の監督トライアウト制度で独立リーグのルートインBCリーグ・茨城アストロプラネッツの監督に就任。1年の任期後に西武に移籍した。「本当に刺激的な毎日を送っている」という伊藤さんは、“育成のライオンズ”に新しい風を吹かせようとしている。


インタビューに応える西武・糸川亮太【画像:パーソル パ・リーグTV】

■1軍と2軍の選手では異なった“言語化能力”

 伊藤さん自身、初めての春季キャンプでA班に帯同した際に気付きがあった。

「1軍経験のない若手選手は『今のどうですか?』のように抽象的に質問するケースが多く、1軍の選手は『今、自分の右肩がこうなっていて、こういう感覚なんですがどうですか?』という聞き方をします。やっぱり言語化能力が高いと、それだけコーチもアドバイスしやすくなる。技術の部分は本人にしかわからない部分もたくさんあるので、自分の感覚をしっかり言葉に出せることで、コーチは適切な指導ができ、その選手が成長していく起点になると思います」

 これら言語化能力と並行して、主体性を身につけることの大切さも伊藤さんは説く。

「日々の会話もそうですが、ミーティング形式、講義形式で、マインドセットというその人自身の思考の設定や癖を勉強する機会を設けています。私個人の考えですが、いくら良い情報、指導を得られても、その選手本人がその気にならないと成長していけないので、取り組む姿勢など、グラウンド内で見えるのであればそれを指導していきます。ウオーミングアップひとつにしても、単に体を温めるだけの選手もいますが、実は大事な意味があって、体を動かしていくと、苦手な股関節の動きが悪いとか、膝の動きが悪いとかを自分で把握できる。考え方ひとつで成長できるきっかけはたくさん転がっているので、選手にはそれを掴んでほしいですね」

 言語化能力と主体性の両輪を身に付けること。それらを日々の生活で習慣化するために、若獅子リフレクションの実施以前から、ファームの選手・コーチ・育成担当間で“きょうのリフレクション”を共有するシステムをつくった。

■スタッフを驚かせたドラ6の進化…“村田論文”と呼ばれるほどに

「昨年から1~2年目の選手を対象に、練習記録として、今日よかったところ(Good)、悪かったところ(Bad)、次どうしていきたいか(Next)。頭文字をとって『GBN』と呼んでいるのですが、それを毎日書いてもらっています」

 選手は試合や練習があったその日のうちにアプリで目標とGBNを書き込み、それらをスタッフとコーチの間で共有。書き込みに関してコーチや育成担当からその日じゅうにフィードバックが書き込まれる。まるで交換日記だ。選手は次回の練習時に課題感を持って取り組め、スタッフやコーチからは選手の状態の把握ができることと、認識のズレがあった場合にすみやかに方向修正が叶えられるという利点がある。

 このアプリへの書き込みで、伊藤さんたちを驚かせている選手がいる。スケールの大きさで注目されるドラフト6位ルーキー、村田怜音内野手だ。5月10日のイースタンの試合のリフレクションで、1軍昇格直前に書いたものだというスクリーンショットを見せてもらった(本人了承済み)。

“村田論文”と伊藤さんも言うように、言語化の量が圧倒的だ。1打席ごとの狙いと結果や、守備の反省点、身体感覚が事細かに書かれている。入団直後の春季キャンプ時のリフレクションを見せてもらうと、わずか数行で空欄もあり、書くことが思い浮かばず苦慮している様子がうかがえた。それがいまや伊藤さんたちも「読むのが大変」と苦笑するほど、論文並みに長いレポートに変わった。

 リフレクションは1?2年目の選手を対象としているため、全員分を読んで返信していくのは伊藤さんたちにとっても骨が折れる。だが、「そういった(しっかり書き記せる)選手が増えていくことこそが、人財開発担当の目標のひとつでもあるので、うれしく思っています」と、選手の文量に対して熱量で応えていくつもりだ。

■故障離脱も「前より強くなって帰ってくると思います」

 村田が1軍出場を果たせたのは、フィジカルや技術面の努力だけではなく、自分自身に向き合う努力を重ねることができたからという証明にもなった。そこから見えた村田の武器とは。

「どうして合わなかったのかを実際の試合中だけではなく、練習の時はこういう感覚だった、試合ではこういう感覚だった、映像見たらこうだった、とさまざまな視点で考えられるところが彼の良さでもあります。体のサイズや飛距離に注目されがちですが、3軍スタートの開幕から1か月半で1軍に昇格した村田選手の一番の武器は、“思考力”にあるのかなと思います。1軍でも、凡退した次の打席で、同じボールをミスショットせずに安打にし、試合で成長ができていました」

 それだけに怪我での離脱は悔しい。だが、「そのしっかりした思考力があれば、必ず怪我する前よりも強くなって帰ってくると思います」と伊藤さんは語る。

 今シーズンはこのリフレクションをインタビューでも取り入れようと若獅子リフレクションが始まった。「日々の取り組みでGBNのリフレクションサイクルを作れているので、普段からやっていることを勝った試合のインタビューだけでなく、負けた時でもやっていこうとなりました」。

 発案者は元投手で現在バイオメカニクスを担当する武隈祥太さんだ。選手も最初は戸惑いがあったそうだが、考えをメディアに乗せて自ら発信するという機会を、うまく活用してほしいと伊藤さんたちは考えている。(「パ・リーグ インサイト」海老原悠)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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