大谷翔平を毎朝“真似”…63歳元プロの自省 伝えたいセンスの本質「私は足りなかった」
Full-Count / 2024年7月1日 7時50分
■広島・菊池も後押し…元日本ハム・広瀬哲朗さんが少年野球で伝える「継続する力」
2004年の北海道移転前、東京ドームを本拠地としていた時代の日本ハムをキャプテンとして牽引し、内野守備の名手として活躍した広瀬哲朗氏。63歳となった現在は、東京・江戸川区の軟式少年野球チーム「城東ベースボールクラブ」のコーチとして、就学前の幼児や体験入部希望の子どもたちの指導を担っている。
同クラブは、森糸法文監督が2021年4月に創設した新しいチームで、練習途中からの参加、途中退出も自由。保護者会組織をつくらず、父母によるお茶当番などもなし。試合ではノーサインなどユニークな方針を掲げている。
昭和36年(1961年)生まれの広瀬氏が教わり、実践してきたやり方とは異なるところも多いが、「ひと言で言うと、自由ですね。私としては、野球の楽しさを知ってもらうことを第一に考えて取り組んでいる。“昭和の野球”にもいいところはあったけれど、時代も、プロ野球のレベルも、ファン層も変わってきているのだから、そろそろアマチュア野球も大きく変わっていい時期だと思う」と持論を展開する。「たとえば、高校野球ではスパイクやグラブの色を制限されていたりするけれど、好きな物でやらせればいいと思う」と語る。
子どもの頃に、広瀬氏から背中を押された名選手がいる。二塁手としてゴールデン・グラブ賞を10回も獲得し、今も日本球界随一の守備力を誇っている広島・菊池涼介内野手だ。小6の時に参加した少年野球教室で、広瀬氏から「おまえは絶対にプロになれる」と言われたことが、すごくうれしかったと明かしている。
広瀬氏は「その話は、雑誌の記事で読ませてもらった。私も彼のことをよく覚えていますよ。西武ドーム(現ベルーナドーム)で、外野では他競技を、内野で野球を、子どもに体験させるイベントだった。私は彼の動きを見て、びっくりした。『君はこれから大人からいろいろ教えられるだろうが、聞かなくていい。今のままでいい』と声をかけたよ」と懐かしむ。
城東ベースボールクラブの森糸監督も、「菊池選手がほめられたことを覚えているように、1つの声かけがきっかけ、自信、思い出につながるような、広瀬コーチだからこそできることに期待しています」とうなずく。
城東ベースボールクラブで指導する広瀬氏【写真:宮脇広久】
■1つの継続で培われる自信「もっと難しいことに挑戦する気持ちも芽生える」
広瀬氏は高校、大学、社会人野球を経て、プロでは13年間プレーした。昭和、平成のやり方とは違っても、自身の長い経験のエッセンスを子どもたちや、その親に伝えていきたいと考えている。「たとえば、『センスとは何か』という話をすることがある。技術的に上手であることが『センスがある』と思われがちだけれど、私は努力ができることこそ、センスだと思っています」とその一端を明かす。
「私は努力が足りなかったから、あれくらいの選手で終わったけれど、イチローくん、松井秀喜くん、今で言えば大谷翔平くん(ドジャース)がバットを振る数はとんでもなかった」と子どもたちに語りかけている。
「他人が実践しているものでも、いいことは積極的に真似をすればいい。実は私も今、(高校時代に率先して寮のトイレ掃除をしていたといわれる)大谷くんの真似をして、毎朝トイレ掃除をしているよ」とも。
「私も子どもの頃、素振りを100回やれと言われてもやらなかったが、10分間のトイレ掃除なら、比較的簡単に継続することができるのではないか」と広瀬氏。「やり続けるのは大切なことで、1つのことを続けられれば、自信がついて、もっと難しいことにチャレンジしようという気持ちにもなれる」と説明する。
一方で、「今の子どもたちは、ある意味では“かわいそう”」と思うこともあるという。「私が学生時代は、指導者から怒られたり殴られたりするのが怖くて、しかたなく練習していたところがあったが、そのお陰で、みんながある程度のレベルに達することができたと思う。今は、指導者が『馬鹿野郎』という言葉も吐いてはいけない時代。子どもたちは怒られないかわりに、自分で考えてやらなければいけない」と指摘する。
「今の時代にも、ものすごく努力している子どもはいる。自分で考えて努力することができない子どもは、大人になって気がついた時、とんでもない差をつけられていますよ」と、主に保護者たちへ訴えているという。時代が変わっても、野球には変わらない本質がある。それを体に刻み込んでいる広瀬氏には、次代へ伝えるべきことがたくさんある。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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