選手の顔踏んづけた指揮官「蹴られまくってた」 外野まで逃げた投手…両軍総出の大乱闘
Full-Count / 2024年7月10日 6時50分
■金田監督との2年間…キャンプの散歩はランニングに「朝から汗だく」
エネルギーの塊だった。ロッテ一筋17年間プレーし、「ミスターロッテ」と愛され、現在は社会人野球「オールフロンティア」で監督を務める初芝清氏。プロ入り後2人目の指揮官は金田正一氏だった。歴代最多の400勝投手で、監督としても1974年にロッテを日本一に導いたビッグネームとの日々を回想した。
初芝氏は尊敬と親しみを込めて「カネやん」と呼ぶ。1990年にロッテ指揮官に復帰した金田監督と2シーズンを過ごした。「カネやんは投手には色んな事を言いますが、野手には全く何も言わない。楽は楽でしたね」と振り返る。担当コーチをしっかり立てていた。
「でも練習はきつかったですよ」と付け加える。練習は楽どころか桁違いにハード。鹿児島キャンプの記憶が強烈過ぎた。
まずは一日のスタート。早朝に散歩するのだが、少しも「散歩」でなかったという。「普通に全体で陸上競技場を歩くのです。それが最初は徒歩よりちょっと早いぐらいのペース。集団の先頭の方はいいんですけど、後ろになればなる程について行けない。だから次第にペースが上がっていって、結局は走ることになっちゃうんです」。
すかさず、金田監督から指令が飛んでくる。「走るんじゃねぇ!」。初芝氏は「いやいや、走んなきゃ追い付かないでしょって皆で言ってました」。目覚まし代わりに体を温めるレベルではない。「だから朝の散歩が終わったら誰もがシャワーを浴びてました。朝から汗だく。飯前にですよ」。本格的メニューは、まだ何一つ始まってないのに。
そして通常のキャンプが始まる。「ウオーミングアップが2時間もあるんです」。現役時代に自身に猛練習を課すことで有名だった金田監督には、決めゼリフがあった。「骨の髄から汗を出せ!」。初芝氏は「僕は、骨の髄液を見たことありませんけどね」と冗談を交えつつ、懐かしむ。
■秋田で大乱闘…大暴れする近鉄助っ人の顔を踏んだ金田監督
金田監督は闘志を全面に出した。1991年5月19日、秋田・八橋球場での近鉄戦で、今も語り草の乱闘騒ぎが起きた。「カネやんvsトレーバー」である。初芝氏は「7番・三塁」で先発出場し、2打数1安打3打点の活躍で6-4の勝利に貢献した。騒動が勃発した近鉄の9回2死一、三塁の場面では、お役御免で途中交代してベンチにいた。
左腕・園川一美投手の投球が左打者のジム・トレーバー内野手の右腕を直撃した。トレーバーは激昂してバットとヘルメットを投げ捨てるや、園川に向かって猛ダッシュ。園川は外野まで逃げたが、捕まった。両チームの選手、首脳陣が入り乱れる。
「だんご状態の所に、僕は頭から突っ込む形になったんです。そしたら倒されていたトレーバーと重なってしまった。トレーバーが蹴られまくってて、僕も蹴られました」。身動きの取れない初芝氏の顔の近くから足が突然出現した。
「目の前で見えるじゃないですか。その足がトレーバーの顔を踏んづけたんですよ。パッと見たらカネやんでした。全体的には見えない、分からなかったと思います。でもトレーバーも見えてますから」。トレーバーは三塁ベンチに連れ戻され乱闘は収まったはずが、踵を返すと再び突進した。園川ではなく一塁ベンチ前の金田監督へと。
■死球で苦悶も「大丈夫です」、腫れあがった左手…全治2か月の大怪我
トレーバーは止めに入ったロッテ選手を突き飛ばした弾みで、バランスを崩して前のめりに転んだ。そこに金田監督が振り上げていた足が額に当たった。退場処分はトレーバーだけ。「でもまあ騒動のきっかけを作ったのは彼ですからねぇ。2度目も防衛ですし」。初芝氏はトレーバーに同情の念も抱きつつ、止む無しと捉える。
川崎球場がロッテの本拠地ラストだったこの年、初芝氏はアクシデントでシーズン途中に戦線離脱した。ホームにオリックスを迎えた8月21日。8回の打席でドン・シュルジー投手から左手首に死球を受けた。
痛みで苦悶する中、金田監督がやって来た。体を心配してくれるのかと思いきや「どうだーっ、守れんのか?」と問い掛ける。当時24歳の初芝氏に“ノー”はあり得ない。「ハイ、大丈夫です」と反射的に答え、そのまま塁上に立った。ところが守備に就く頃には患部が腫れ上がった。「グラブに手が入りません、無理です」と説明すると、「早く病院へ行け!」。診断結果は全治2か月で「V字に折れてました」。
「ですから僕はそこでシーズン終了。川崎最後のセレモニーにはいないんです」。金田監督も、その年限りで退団した。初芝氏は思い出がいっぱいのエネルギッシュな指揮官と最初のホームグラウンドから別れることになった。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)
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