巨人OBが「泣き虫監督」でいる理由 “わざと…”の涙も、5年ぶりVで初めて見た景色
Full-Count / 2024年7月25日 10時10分
■まるで準決勝のリプレー…2点ビハインドの8回に一気逆転
夏の高校野球神奈川大会の決勝が24日、横浜スタジアムで行われ、東海大相模高が6-4で横浜高に逆転勝ちし、5年ぶり12回目の夏の甲子園出場を決めた。2021年9月から指揮を執っている原俊介監督は、指揮官として初の栄冠に感慨深げ。ナインは元巨人捕手でもある原監督との信頼関係をどう構築していったのか──。
東海大相模高は2-4とリードされて迎えた8回、才田和空内野手(3年)が先頭打者で中前打を放ち、口火を切った。その後、内野安打、犠打、四球で1死満塁とし、1番打者の三浦誠登外野手(2年)が中前へ起死回生の同点2点適時打。さらに3番・中村龍之介外野手(2年)が左中間を破る勝ち越し2点二塁打を放ち、一気に試合をひっくり返した。
まるでリプレーを見ているような展開だった。前日(23日)の準決勝でも、向上高に1点をリードされて8回を迎え、才田の満塁走者一層、逆転二塁打で勝ち切った。原監督は「昨日は私自身『ヤバイ』と思いましたし、『負ける』と思った瞬間がありました。その雰囲気を生徒たちが跳ね返してくれた。お陰で今日は、生徒を信じることができました。私からも『必ずチャンスは来る。その時に風穴をあけるぞ』と言葉がけをしていました。私は生徒に強くしてもらいました」と感慨深げに振り返った。
東海大相模高は昨秋の神奈川大会準決勝で、やはり横浜高と対戦し、この時は延長10回タイブレークの末に9-10で惜敗している。今春の神奈川大会でも、決勝で武相高に8-9で敗れた。熱血漢の原監督はそういった時にたびたび涙を見せ、選手にとって見慣れた光景となっていた。しかし原監督は「わざと泣く時もあるんですよ。(チーム全体で)悔しさを出したい時とかです」と説明。チーム全体で同じ方向を向くための“演技”というわけだ。ただし「昨日の準決勝で勝った時は、本気で泣きました」と笑った。
また、甲子園常連校を率いる重圧を背負っている立場だけに、「監督には、やったことのある人にしかわからない心境が数多くあると思います。それを1人で処理しないといけない。演技といえども、(泣くことで)すっと吹っ切れることがありました」と吐露した。「『やるぞ』という気持ちを選手に伝える時には、僕の心も盛り上がってしまう。そういう時に冷静に事を運ぶことは苦手です」と語ったのは、偽らざる本音だろう。
■「隙のない野球」掲げガッツポーズ、パフォーマンスはなし
一方、選手たちはいかにして、そんな熱血監督と“チューニング”を合わせていったのだろうか。才田は「原監督はすごく熱い方なので、最初は距離感というか、選手たちとの間でうまく話せていないと感じることもありました」と明かし、「昨年の秋、新チームが始まった頃に、主将の木村(海達捕手=3年)を中心に、選手だけでミーティングを開いたことがありました。『自分たちはこういうチームで、こう勝つ』ということを話し合い、チームのことも、原監督のことも理解していきました。最近は監督とフランクな会話をすることも増えました」とうなずいた。
熱いだけではない。チームのモットーは「隙のない野球」。選手はここぞの場面で殊勲打を放った時でさえ、派手なガッツポーズやパフォーマンスを繰り出すことはない。ゲームセットの瞬間まで浮かれず、諦めず、地に足をつけて勝利を手繰り寄せる。それが準決勝、決勝のしびれる局面での逆転劇につながった。
原監督は選手たちの手で胴上げされ、8度宙を舞った。「大会前、冗談で選手たちに『俺は胴上げに備えて6キロくらいやせたから、よろしく頼むよ』と言ったのですが、大会中に体重が戻ってしまい、『重いから怪我をするなよ』と注意して、上げてもらいました。現在の体重? そこらへんは言えませんが、今までに味わったことのない景色でした」と感激に浸った。
「甲子園でも相模らしい積極的なプレーの中で、隙を見せない野球をゲームセットまで続けて、堂々と帰ってきたいと思います」。そう宣言した原監督は、勇躍念願の“聖地”へ向かう。(磯田健太郎/Kentaro Isoda)
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