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減る児童、増える「運動しない子」 裾野広げて10年…少年野球チーム“再設立”のワケ

Full-Count / 2024年8月5日 7時50分

北学ジュニアを立ち上げた寺尾孝監督(左端)【写真:フィールドフォース提供】

■新潟市北区で立ち上がった北学ジュニア「まずは野球を知ってもらうことから」

 子どもが減り続けて、小学校が統廃合されていく。新潟県新潟市の東端、北区の旧豊栄市にもそういうエリアがある。2年後にはまた2校の統合が予定されているという。

「正直、このへんは野球に限らず、スポーツをしない子ばかり。保護者に話を聞いても、その傾向が強いです。だから今はまず、野球というスポーツがあるということを知らせて、興味を持たせて楽しませることを最優先にしています」

 こう語るのは今年度、「北学ジュニア」という少年(学童)野球チームを立ち上げた寺尾孝監督、59歳。今も暮らす地元で高校までプレーし、指導歴は20年を超える。関わってきた人たちの間では「子どものような大人」と評判で、孫のような選手たちからは「寺尾さん」と親しまれている。

 昨年度まで10年間は、所属やチームを問わない3年生以下の野球教室「北学キッズ」を手弁当で開いてきた。4年生からも野球を続けたい子は、それぞれ好きなチームへ送り出すというシステム。もちろん無報酬のボランティアだった。

 野球界の底辺拡大においても肝となる、導入部の裾野を広げる活動。これを地道に続けてきた理由は「野球への情熱というよりは、生まれ育ったこの地域と子どもが好きだから。子どもは地域の宝です」(寺尾監督)

 ところが、地域の野球熱は下火のまま。区内ではかつて10チーム以上が活動していたが、現在は半分以下の4チームに減少。選手不足で自然消滅した中には、寺尾監督が2003年から10年間率いた笹山ライオンズもあり、拠点だった笹山小学校は2019年度限りで閉校している。

「このままサポート(野球教室)だけじゃ、チームはもっと減っちゃうだろうから、自分で新しく作ってまた始めようと」


北学ジュニアの選手たち。取材日は体験生も加わり13人【写真:フィールドフォース提供】

■“言葉のキャッチボール”の中で引き出す、子どもの考え方や意欲

 北学ジュニアでは現在、12人の小学生がプレーする。約半数は野球教室の元生徒で、あとは野球を始めたばかり。通う小学校はバラバラで、活動は土曜の午後と日曜の午前、小学校の校庭や跡地が主な拠点だ。

 去る土曜日、豊栄木崎野球場での練習へ赴くと、ユニホームは完成前で、帽子はバラバラだった。選手は到着すると、ホワイトボードに名前を書き込み、手分けをしながら練習の道具をグラウンドに運び入れて並べていく。

 そしてベンチ前で横一列に並び、指揮官からホワイトボードの名前を呼ばれた選手が返事をしていく。「点呼では1人1人の元気とか表情、いつもとの違いなどをまずは確認するんです」

 指揮官と選手たちとの対話、言葉のキャッチボールは、練習の合間に必ずあった。野球の知識も経験も乏しい子に、ゼロから考えて行動させるのは無理がある。そこで寺尾監督は、対話の中で、ある程度のスケジュールや現状の見解などを示しながら、個々の意欲や考えを引き出していた。

 たとえば、「9月に入ったら練習試合を組みたいと思います。出たい人?」という指揮官の問いに、選手たちの多くが挙手。「そのために自分は頑張っていると思う人?」には、全員の手が挙がった。以降の対話はこういう感じだった。

「オレもそう思います。ただ、少しダラダラしている気もします。休憩中はどうするんですか?」

「ダラダラする!」

「練習中は?」

「集中する!」

「そうだね、じゃあ、暑いときは何て言う?」

 この問いに選手たちは口々に「暑い!!」と大きな声を発し、またそれを上回るボリュームで指揮官がこう言ってから、豪快に笑った。

「そうだ、思い切り叫ぶぞ!! 暑いし、疲れるよな、練習だもんな!!」


選手とのコミュニケーションを密にとる寺尾監督【写真:フィールドフォース提供】

■「子どもの笑顔が消えてる!」…“勝ちたい欲”を諫めた元保護者の一言

 こんな調子で各メニューへ。練習内容そのものは、どれも目新しくはない。ただし、指揮官が常に巡回しながら、選手と1対1でどんどんコミュニケーションを取る姿は珍しい。時には手取り足取りで、技術面のレクチャーもあった。

 また、初めての対外試合へ向けた内野ノックでは、選手に涙もあった。明らかな恐怖心からボールがグラブになかなか収まらず、あがりの1本のやり直しが続いた選手も、その1人。指揮官は最後まで妥協せず、言葉で励ましながらノックバットを振り続けた。その後は全員を集めると、輪の中心で片ヒザを着き、1人1人の顔を見ながらの対話が始まった。

「これからはチーム内の競争が始まります。野球は何人が試合に出られますか?」

「9人!」

「そう、でもまだみんな、わからないことがたくさんあるから教えていきます。どんどん失敗していいから、失敗をそのままにしないでください。自分で修正できなかったら、監督やコーチに聞いてもいいです。今日だけでも、みんなうまくなっているから、自信をもってください!」

 大きな返事で場が開け、また全員での後片付けへ。まだ泣き顔の選手は、指揮官から「ごめんね」と話しかけられてしばらく対話。最後はやる気を確認して、互いの手と手をタッチして終わった。

 半日練習の間、どの選手にも笑顔と真剣な眼差しがあった。でも、誰より楽しそうだったのは指揮官だ。汗びっしょりで動きまくり、話しまくり、笑いまくる。

 指導方針は、かつての笹山ライオンズ時代から不変で「野球を楽しむ選手を増やすこと」。前チームでは一時期、選手のレベルが上がったことから色気が生じ、「勝利」「優勝」へと自ら走ったこともあるという。しかし、久しぶりに訪れた卒団生の保護者から、痛烈な一言を浴びて我に返ったという。

「面白くない! 子どもの笑顔が消えてしまっている!」

 今後も道を見失いそうなとき、指導の壁にぶつかったときには、その一言を思い返すつもりだという。

「子どもも野球の灯も、この地域から消したらいけないと思っています。まだまだ、やりますよ!」

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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