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戦力外で急遽“SOS” 関西から名古屋→東京直行も…まさかの「帰っていいよ」

Full-Count / 2024年8月24日 7時20分

岩倉高・野球部コーチの山口重幸氏【写真:真柴健】

■阪神、ヤクルトで活躍の山口重幸氏…球児に伝えたい「ノムラの教え」

 球児たちにも「ノムラの教え」を知ってほしい。現役時代に阪神、ヤクルトで活躍した山口重幸氏が、今年4月1日付で東京・岩倉高の野球部コーチに就任している。1984年センバツで甲子園優勝を果たした山口氏は秋のドラフト会議で阪神から6位指名を受け、プロ野球の扉を開いた。

 岩倉高では投手だったが「自分で評価するとしても武器がなかった」と振り返るように、入団直後から内野手に転向。「投手に未練はありませんでした。ただ、外野手だと思っていたら、内野手だったので、そこには葛藤がありましたね(笑)。18歳から全く夢が見れなかったんです、あのメンバーでは」。腕組みをして、当時を振り返った。

 山口氏が入団した1985年、阪神は日本一に輝いた。一塁から順番に「バース、岡田、真弓、掛布……。え、なにこれ? と思いましたよ」と表情を柔らかくする。「結果的にプロの世界で長くプレーできたので、内野手になるという選択肢は間違ってなかったと思います」。主に出場機会が増えたのは、ヤクルトに移籍した1995年だった。

「プロ8年目のオフ(1992年)に膝の手術で1年間、野球ができなかったんです。1年リハビリ生活だと。僕は『クビになるから我慢してプレーを続けます』と言ったんです。すると、球団から手術の許可が出たんです。有り難かったです。リハビリも含めて1年かかって、10年目(1994年)の9月に2軍でようやく復帰ができたんです。そしたら、そのオフ『10年やらせてあげたのでクビ』だと言われたんです」

 まだグラウンドに立ちたかった。「そりゃないよ……と。一生懸命リハビリして復帰したのに。『あと1年だけやらせてください』とお願いしたんですけど、ダメでした」。ふと頭に浮かんだ存在がいた。阪神でコーチを務めていた島野育夫さんが、中日の2軍監督に就任していた。

「当時、可愛がってもらっていたんです。『何かあったら電話してこい』と家の電話番号をもらっていた。連絡してみたら『テスト、受けたいのか……? 1回、名古屋に来い』と言ってくださったんです」

■急遽、東京に直行するも「おう、獲るよ。もう帰っていいよ」

 荷物をまとめて名古屋に直行した。「名古屋球場にテストを受けに行ったんですけど『悪いな、俺には力がないんだ』と。松井優典さん(当時はヤクルトヘッドコーチ)に繋いでやるよと言われ、その場で電話してもらって……。『東京に来い』って。今度はすぐに東京に向かいました」。野村克也監督は予定があり、その日は不在だったが東京で連絡を待っていると「おう、獲るよ。もう帰っていいよ」と返事があった。

「偶然、前年の開幕カードで活躍できたんです。神宮です。阪神-ヤクルト。僕はオマリーの守備固めで途中出場。打席が回ってきて逆転タイムリーを打って、お立ち台に呼んでもらったのを覚えています」

 当然、その試合は野村監督の脳裏にも刻まれていた。「なんでクビになった? お前、甲子園優勝投手やろ。なかなかいないぞ、そんな人生。なんでも(仕事して)食べていけるやろ。まだやりたいんか?」。すぐに返事をした。「はい……。お願いします。どうしても続けたいんです」。“初対面”で新天地が決まった。

 移籍1年目の1995年は主に代走や守備固めで、キャリアハイの77試合に出場。日本一にも貢献した。山口氏は言う。「野村さんの考え方で『無視、称賛、非難』というものがあるんです。一流は無視、二流は称賛。僕は『称賛』だったんです。控え選手ですから、褒めてもらえるんです」。指揮官からの声掛けも、周囲に比べて多かった。

「僕はすごく良い思いをしています。いつも『頼むぞ』と言ってもらってました。『悪いな、ミューレンが疲れているから守ってやってくれ。今日も頼んだぞ』みたいな感じで気遣ってくださってましたね。仲間たちからは『そんなこと言われるのはグッチだけだよ〜。ありえないよ』とイジられたりもしていました」

 翌1996年も62試合に出場したが、現役引退を決断。その後は打撃投手やスコアラーなどのチームスタッフとしてチームを支えた。「野村さんに獲ってもらって、本当に感謝しています」。書き溜めた野球ノートは今でも宝物。「ノムラの教え」を球児たちに“継承”していく。(真柴健 / Ken Mashiba)

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