球速アップ実現のための必須動作とは? 打者方向への“速さと強さ”生む「連結部の形」
Full-Count / 2024年8月26日 7時5分
■理想的な体重移動と体の回旋実現へ…「ヒップヒンジ」で股関節をしっかり使う
球速アップを実現するために、理想的な「体の使い方」とはどのようなものか。闇雲に筋肉を鍛えて腕を強く振ったところで、効果的にボールへ力が伝わらなければ、肩肘の怪我にもなりかねない。大阪・豊中、堺を中心に、理学療法士などの医療国家資格を持つ指導者がマンツーマンで投球指導を行う野球塾「PPA(ピッチングパフォーマンスアカデミー)」を運営する伊藤聡希さんは、投球動作において“重要な形”ができているかどうかがポイントとなるという。
球速アップのための必須要素として、伊藤さんはまず、前足を挙上して踏み出す際の「体重移動の速さ」と、トップを作ってからリリースするまでの「体幹の回旋の強さ」の2つを挙げる。そして、その速さと強さを生み出す前提として、「体重移動の際にヒップヒンジの形ができているかが鍵になります」と語る。
ヒップヒンジとは、お尻を後ろに突き出しながら、股関節を蝶番(ヒンジ)のように折り畳み、腹部と前ももを近づけていく動作のこと。いわゆるスクワットの形だ。
「山本由伸投手(ドジャース)のような良いピッチャーは、上げた足を下ろして重心を落とし、前に加速しながら体重移動をしていく際に、このヒンジのイメージがしっかりと作れています。小学生レベルだとそれが苦手で、体重移動がうまくできずに悩む子はとても多いです」
股関節の屈曲によって力をため込むことで、しっかりとステップした足に体重が乗り、地面反力を得られて強い球が投げられる。また、骨盤が前傾するため下半身と上半身の連動が生まれ、肩甲骨が動き、トップからリリースまで適切な腕振りができるようになる。しかし、特に小学生にはこの「ヒンジの形」がイメージしにくい。股関節ではなく膝関節を曲げてしまうため、前足に体重が乗らず、強いボールが投げられないという。
伊藤さんは、そうした子たちにドリルを施すなどして、正しいヒンジの形の作り方を指導し、股関節を使いながら体重移動をしていくイメージを築いてもらう。
「挙上した足を下ろしてステップしていく際の体の動きは、曲線を描くように前へ移動していくのが理想です。しかし、指導の初期段階では、まず足を下ろす→ヒンジの形をしっかり作る→前にステップしていく、という“L字形”の動きでイメージさせてもよいと思います」
野球塾「PPA」を運営する伊藤聡希氏【写真:高橋幸司】
■ヒンジの形を作るためにも股関節の柔軟性や可動域が必要
とはいえ、臀筋やハムストリングスなど、股関節周りの筋肉の強さや柔軟性がなければ、適切なヒンジの形を作ることは難しいし、足関節(足首)の柔軟性などの細かい要素も必要となってくる。「PPA」ではドリルを提供する前に、開脚や前屈、ブリッジなどで柔軟性の数値を測定し、必要とあれば施術を行うなど、フィジカル面から根本的な改善を目指す。
「股関節は下半身と上半身をつなぐ、電車で言えば連結部となる重要な部分。当然、そこの可動域、柔軟性があることが投球動作では大前提です。頭に思い描くイメージと体の動きを一致させるために、まずはフィジカルを整える。それが動作の再現性や身体操作能力向上につながります。ウエートトレーニングなどは、身体操作能力レベルを上げ切った、その先にあるものだと考えています」
伊藤さん自身、投手をしていた高校時代は思い描く投球ができず、不振に悩む時期が長く続いたが、3年生に上がる直前、練習試合前のブルペンでチームメートから助言を受け、適度に脱力しつつ、体重移動と体の回旋の速さを意識することで、“スパンと腕を振り抜ける感覚”をつかんだという。
「そこからは軽く投げても140キロ近い球速を出せて、思うようなコースに投げられるようにもなりましたが、高3ではちょっと遅すぎました」。指導する小・中学生には、自分のように遠回りすることなく“バチっとハマる瞬間”を早く味わってほしい。経験を反省材料に、適切な体の使い方を伝えている。(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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