母の勧めで登録名変更「平仮名にした方が…」 最初は拒否も…激変したプロ人生
Full-Count / 2024年9月6日 6時50分
■濱中治氏は2001年に登録名を「濱中おさむ」に変更…110試合で13HR
阪神などで活躍したスラッガー・濱中治氏(野球評論家、関西独立リーグ・和歌山ウェイブスGM)はプロ5年目の2001年に1軍で結果を出した。110試合に出場して、打率.263、13本塁打、53打点。6月28日の広島戦(甲子園)では阪神の“第85代4番打者”にもなった。まさに大きく飛躍したが、きっかけは母の日。5月13日の広島戦(甲子園)でのプロ1号逆転サヨナラ3ランだった。「初めてスライダーを待ってスライダーを打った」。配球を勉強した成果で勢いに乗った。
濱中氏はプロ5年目から登録名を「濱中おさむ」と、名前を漢字から平仮名表記に変えた。「ウチの母親が『治』よりも『おさむ』って平仮名にした方が結果が出やすいと訳のわからないことを言ってきたんですよ。どこかからか聞いてきたみたいで……。『そんなのいらん』って最初は言っていたんですけど、こっちも気になってきて登録名だけ変えたら大丈夫という話だったんで、まぁまぁ、そこだけだったらいいかなと軽い感じで変えたんですけどね」
すると好成績を残したのだから「ホントにまぁ、不思議な感じでしたね」と濱中氏は笑みを浮かべた。2001年は5月に1軍昇格。5月5日の中日戦(甲子園)に「1番・中堅」で起用されて4打数1安打2三振からのスタートだった。翌5月6日の同戦は途中から右翼守備に就き、打席はなし。5月9日の横浜戦(横浜)は「1番・中堅」で3打数無安打。5月11日の広島戦(甲子園)は「1番・中堅」で4打数1安打2三振。5月12日の広島戦は代打で四球。そして5月13日を迎えた。
1-3の9回裏、阪神が1点を奪って2-3とした後だ。「1番・左翼」でスタメン出場していた濱中氏が左翼スタンドに逆転サヨナラ3ランを放った。劇的な一打が、待望のプロ第1号アーチになった。その日の5打席目だった。4打席目までは無安打1四球。なんとか結果を出したいところで、広島右腕の河野昌人投手からの値千金の一発。野村克也監督の期待に応えた。指揮官に「もっと頭を使え」と言われ、配球を勉強した成果でもあった。
「初めてスライダーを待ってスライダーを打ったんです。3ボール1ストライクだったけど、チャンスだったし、こんなところで真っ直ぐは来ないやろうなと思った。その前にスライダーは見ていたんで、ある程度、軌道はイメージできていた。これで1球真っ直ぐが来ても3ボール2ストライクになるから、ここはスライダーを待ってみようと。そしたらスライダーが同じような軌道で来てホームランになったんです」
元阪神・濱中治氏【写真:山口真司】
■“読み勝ち”のプロ初アーチ…改めた感じた読みの重要性
この一発がきっかけになった。「野村監督に言われた配球の大事さってこういうことなんだなって改めて思い知りました。あそこでスライダーを待って打って、その(読みが)当たった時のバッターの快感というか、目茶苦茶やってやった感がすごいなって思った。そこからですね。すごく打席の中でも考えるようになりましたし、ホームランも増え始めたんです」。結果が出たことで、さらに配球の勉強も重ねた。
「キャッチャーの癖を読むのも大事だなと思って、広島の西山(秀二)さん、ヤクルトの古田(敦也)さん、当時現役(捕手)の巨人・阿部(慎之助)監督もそうですけど、意外と癖が出たりとかするんで、そこをちょっと逆手にとったりとか、いろんなことをやるようになりましたね。ただ漠然と打席に入って打つよりも絶対そっちの方が打った時の喜びがすごいし、やっぱり自分自身でいろいろ勉強できるなと思ったのが一番ですかね」
野村監督の教えを信じた。「ただバッターボックスに入って、来た球を打つ。それだけで打てたらいいと思いますけど、野村さんには『今のお前の実力でいったら2割7分は普通にやったら打てるやろ。けど3割バッターには頭を使わないと、配球を読まないとなれないよ』って言われていましたしね。まぁ、僕の場合、はじめてスライダーを待ってスライダーを打って最高の形で結果が出たのも大きかったかもしれないですね。あれが凡打だったらどうだったでしょうね」
野村監督もまた濱中氏のそんな努力を知っていたから、この5年目は使い続けたのだろう。打順も1軍昇格当時は1番が多かったが、その後、クリーンアップを任せるようになり、6月28日の広島戦をはじめ、数試合、4番でも起用した。濱中氏もバットで答えを出し、後半は3番打者に定着して規定打席にも到達した。まさに“野村の考え”によって、5年目にして1軍の壁をブチ破り、一皮むけたわけだ。
母・恵美子さんに言われて登録名を「濱中おさむ」に変えた2001年は濱中氏にとって忘れられないシーズンになった。躍進のきっかけとなった劇的プロ1号を放った5月13日は母の日。「あの日、母は甲子園に来ていたんですけど、9回裏は帰りが混むことを考えて球場から引き揚げていたんですよ。ヒーローインタビューで僕は見てくれていると思ってしゃべっていたんですけどね」と笑うが、それもまた思い出。会心の一発は濱中氏の脳裏に刻み込まれている。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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