パドレス投手陣に封じられた大谷 「イチローvs野村監督」を彷彿…巧みな駆け引きの妙
Full-Count / 2024年10月8日 7時40分
■高めの速球を多投「いかにストライクゾーンのボールを選んで振るか」
【MLB】パドレス 10ー2 ドジャース(日本時間7日・ロサンゼルス)
ドジャースは6日(日本時間7日)、本拠地で行われたパドレスとの地区シリーズ第2戦に2-10で敗れ、1勝1敗となった。大谷翔平投手はパドレス先発のダルビッシュ有投手に、空振り三振、一ゴロ、投ゴロに抑えられるなど、4打数無安打。第3戦は8日(同9日)に敵地で行われるが、今後の活躍のポイントとは──。
「いかにストライクゾーンのボールを選んで振るか。そこが今後のポイントだと思います」。こう指摘するのは、現役時代にNPB通算2038安打を放ち、引退後もオリックスなどで名打撃コーチとして鳴らした野球評論家・新井宏昌氏だ。
大谷はダルビッシュに対し、第1打席で外角低めのスライダーを振らされ三振。第2打席は外角低めのスプリットに一ゴロ。第3打席は117キロのカーブを打ち損ない、ボテボテの投ゴロに倒れた。最後の第4打席は、左腕タナー・スコット投手の前に3球三振。3球全てが156キロを計測した高めの剛速球で、最後はボール気味の球を振らされた。
多彩な変化球を駆使したダルビッシュは別として、パドレス投手陣は大谷対策として、高めの速い球を使うと報じられており、実際に第1、第2戦を通じて、そういう配球が目立った。大谷が第1戦の2回に放った3ランは、まさに真ん中高めの155キロの速球を、豪快に右翼席へ放り込んだものだった。一方、スコットとは第1戦の8回にも対戦し、ここでも7球オールストレートで、最後は高めのボール気味の156キロを振らされて三振に倒れている。
新井氏は「私は昔の日本シリーズで、イチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)と野村克也さん(故人)が対決した時のことを思い出しました」と振り返る。1995年、新井氏自身が1軍打撃コーチを務めていたオリックスと、野村氏が監督として率いていたヤクルトが日本シリーズで対戦。野村氏はシリーズ開幕前、マスコミに「イチローの弱点は高めのストレート」と公言した。
■イチロー氏の猛打を抑えた策略「ボール球にも手が出てしまった」
「ヤクルトの投手陣は本当に、内角高めに投げてきましたが、実はストライクは全くなかった。イチローはその球を打ちにいって、ボール球にも手が出てしまい、シーズン中ほどの活躍はできませんでした」と新井氏。シーズン中に打率.342、25本塁打80打点の猛打を振るいMVPに輝いたイチロー氏が、日本シリーズでは打率.263(19打数5安打)。ヤクルトが4勝1敗でシリーズを制する要因の1つとなった。自信を持っている強打者ほど、相手に「ここが弱点」と指摘されると、むきになって打ちにいきがちだ。そこに落とし穴があった。
一方、新井氏に「大谷選手に彼の打撃を参考にしてもらえればいいのかな、と思いました」と言わしめた打者が、パドレスにいた。この日「5番・中堅」で出場し、2ランを含む5打数3安打3打点と気を吐いたジャクソン・メリル外野手である。弱冠21歳の左打ちのスラッガーで、カブス・今永昇太投手らとともに今季ナ・リーグ新人王の有力候補と見られている。
メリルは3-1とリードして迎えた6回1死一、二塁の好機に、ここでリリーフした左腕アンソニー・パンダ投手のツーシームを“逆方向”の左前へ弾き返し、貴重な追加点をもぎ取った。さらに8回、右腕ライアン・ブレイシア投手の外角のストレートを、やはり“逆方向”の左中間席へ運んだ。
新井氏は「大谷選手が高めの速い球をとらえようとすると、強いスイングが必要になり、強振しようとすれば、引っ張ろうという意識はなくても、引っ張る体の動きになりがちです」と指摘する。その点で、逆方向へ快打を連発したメリルの打撃を「素晴らしかった。大谷選手が今季、特に左投手に対してメリルのような打撃をしていれば、3冠王を獲れたのではないかと思うくらいです」と称賛。大谷がナ・リーグで本塁打、打点の2冠に輝いた一方、打率部門で首位打者のルイス・アラエス内野手に4厘差の2位に終わったことを惜しんだ。
大谷が奮闘するMLBのポストシーズンには、古今東西に通じる野球の妙味が凝縮されている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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