大人の発言“厳禁” 泣きじゃくる子も変化…全国大会で実践、勝敗の壁なくす「20分間」
Full-Count / 2024年10月15日 7時5分
■指導者主導型は「限界ある」…女子小学生全国大会で実施のAMFとは?
試合後の「振り返りの時間」は、選手やチームにとって大きな学びにつながるはず。しかし少年野球では、“反省会”という名のマイナス要素が先立つニュアンスで、チーム内で個人発表のように行われるケースが多いのではないだろうか。そんな風潮を変えるヒントになるのが、全日本軟式野球連盟が、女子小学生の全国大会「NPBガールズトーナメント」で導入している「アフターマッチファンクション」(以下、AMF)。選手の主体性を伸ばすだけでなく、大人側の気づきにもつながるその内容と効果について取材した。
AMFとは、試合後に対戦チーム同士が参加して互いの健闘をたたえ合う交流会で、元々はラグビー発祥の文化だ。大会関係者、チームスタッフ、審判員なども見守る中、選手同士で試合内容などをディスカッションし、親睦を深めることを目的としている。全軟連は「共に戦った仲間との交流は人間的成長につながり、野球上達にも効果的。スポーツマンシップの理解にもつながる」と、2023年のNPBガールズトーナメントから導入を始めた。
基本的な流れは、試合終了後、JSPO(日本スポーツ協会)公認コーチ3の資格を持つ指導者を進行役に、両チームの選手が5~10人の小グループに分かれてグループトークをし、話し合った内容を一同に発表。最後に両チームの主将が挨拶をして全員で集合写真を撮影するまで、20分間を目安に行う。監督・コーチの発言は一切禁止、主体は選手である子どもたちだ。
2023年大会では準々決勝以上の7試合、今年は1回戦から決勝まで11試合で実施した。「勝敗がついた後に対戦相手との交流は可能なのか」「指導者抜きで、初見の子ども同士で話し合えるのか」。野球に関わってきた大人であればきっと、そんな後ろ向きの想像をしてしまうかもしれない。
仕切り役以外の指導者・保護者ら大人は周りで見守る【写真:全軟連提供】
■選手間の自主的な声掛けや気づきの共有が「強いチーム」を育てる
「実は私も、『上手くいくだろうか?』と思った一人です」
笑いながらそう教えてくれたのは、昨年から進行役として参加する、石川県の強豪女子野球チーム「DULLERS」(ダラーズ)監督の吉田典宏さん。公式戦におけるAMFの前例がないため、当初は戸惑いもあったというが、女子チームを20年以上率いて5度の全国優勝、今年も「女子軟式野球ジャパンカップ」優勝に導いた経験の中で、「指導者主導型には限界があり、選手間の自主的な声掛けや気づきの共有が強いチームを育てる」ことを体感していた。
「最初は冷や汗をかきながら、必死でやり切った覚えがあります。しかしAMFを始める前と後では選手の表情がまったく違った。笑顔や口数が増え、お互いが打ち解けている様子を見て、指導者・保護者など関係者の好意的な反応や感想を耳にし、ようやく本質を理解できました」
主催する全軟連は、「AMFに“正解”はない」というスタンス。理想的な展開が待ち受けているとは言い切れないし、その流れや結果はやってみなければわからない。しかし、子どもの主体性を伸ばし、仲間意識を芽生えさせ、実社会において大事なことを学べる場を提供することに大きな意味があるのは、吉田さんの話からも明らかだ。
「試合を振り返ると、細かい場面について大人が感心するような意見が出ます。うまく言葉が出ない子を別の子がフォローしたり、泣きじゃくる相手チームの子を気遣ったり、言葉を選んで発言したりするなど、自然と寄り添うシーンが多い。それらはすべて子ども自身の自主的な言葉、行動です」
最後は両チームで決めたポーズで集合写真を撮影【写真:全軟連提供】
■「できないと思い込んでいるのは大人」…新しい発見と気づきが指導を変える
吉田さんはAMFの進行役を通して、「子どもに“裏切られた”」という新鮮な発見もあった。それは、「結局、子どもができないと思い込んでいるのは大人だ」ということだ。
「目的をしっかり伝え、考えるきっかけを与えてあげて、答えが出るまで待つだけでいい。あれこれ先回りする必要がないと気づかされました」。選手たちはこの先、野球を続けていく中で、どこかで再会する日もあるはず。「『あのAMFに私もいたよー!』なんて話ができるきっかけになってくれれば」。
同じ試合を作った仲間同士の交流は、勝敗だけにとどまらない野球の楽しさ・奥深さを、選手である子どもを通して、関係する大人にも教えてくれるようだ。全軟連では今後、全日本学童大会マクドナルド・トーナメントや、全日本中学女子大会での導入も検討するという。
“人間的成長なくして技術的進歩なし”。名将・野村克也氏の言葉のように、AMFがその一歩につながるかもしれない。(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)
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